第40章 悔いのない人生を
──どうして子供達の誰もが悟の行動を止めようとしないんだろう?
悟から子供達を見れば誰もが見守るようにしてただ呆然と立ってるだけ。駆け出して止めようだとか、この領域を抜け出そうだとかしようとしてない。最期を見届けようとしている姿…。
……それが悟が早くも死ぬ事を望んでるみたいに感じられて、そんな酷い子に育ってしまったのかって思った。
花束を抱える手に力が籠もる。ラッピングされた花束がまたいくつか千切れて地面へと散る中で、数歩下がれば悟も着いてきて触れてる頬からは手を離さない。
子供達を向いたままに私は叱った。
『どうして悟を止めないのっ!?まだ父さんは元気でこの先ずっと生きていけるってのに……!この人は呪術界にも五条家にもまだまだ必要とされる人でしょう!?誰が、なんの為に悟を死ぬ事を喜ぶと思ってんのっ!』
もぞもぞと手足をバタつかせ、うわぁぁん、と無く子供を抱えた蒼空が、あやしながら悲しそうに微笑んだ。
「……父さんの希望だよ。僕たちももちろん最初は反対だった、父さんが死ぬ事にイエス、なんて即答して喜ぶ冷酷な兄弟なんて誰も居ないさ」
『反対なら、反対ならそのまま貫けっての!なんで……?どうしてさ……。私は…悟には、生きて欲しいのに…っ、その為に、私は……』
涙さえも流せなくて、そんな私の頬に触れてると分かるのは、視界で手首から先が見えるからであって……。体温も、匂いも大事な感覚の無い、魂と僅かな呪力の合わさった取り残された身体。
息子は子供を揺すって泣き止ませた後に私をしっかりと射抜くように見つめてる。
「僕らは、仲の良い父さんと母さんには一緒に居て欲しいって願いが一致してる。
今日のために父さんは全ての後始末は済ませてあって、呪術界からの引退宣言、僕への当主の引き継ぎ……皆への遺言。父さんが支えてきた呪術師達のバックアップ。全てを父さんはこの時の為に済ませて死を覚悟して来てるんだ……もちろん、僕たちも父さんが死んでしまうという覚悟を決めてね。
父さんは…、五条悟は。今日より明日以降の人生を望んでいない」