第40章 悔いのない人生を
抱き寄せる力を緩めた悟。花束が開放されてふわっと包まれていたはずがぺしゃんこになってる…。
私と視線を合わせた後にふっ、と顔を背けた悟。
その悟が向いた方向には領域内の色々な物質があった。無には作られる事のない、呪力を搾り取った後に残る魂を変質させた、生命を感じさせない枯れた物たち……。
「あれらはここで死んだ者たちだろ?僕もここで死ねばずっとオマエの側に居られる」
『──知ってたんだ、悟…』
話していなかったのにこの領域内でのルールを知ってる彼。少し驚いたけれどそんな私の顔を見た悟は得意げに笑った。
「あはっ!……いつからって顔してるね?ンなもん、ずっと前さ。この領域内の濃い呪力に満ちた中で大きな木と落ちている細枝では纏うモノが違うって事に気が付いた時かな。
無機物でありながら非常に薄い膜がね、何かを拡散しないようにって留めてて記憶や来る度の変化に気が付いてしまえば後は簡単だ。肉体から離れた魂は呪霊や怨霊にならず……なっても解き放たれた後は遠くへと消えていくものがここでは抜け道が無いからねー……行き先が決まるまでは"物"として留まってるんだろう……」
瞳を細め、片手で私の頬に触れる悟。
落ちない夕日が悟を照らしたまま、そのオレンジ色が別れの色をしているみたいに感じて、怖くて。ゆっくりと首を私は振った。
悟の気持ちに背く事だけど、流石に悟の最期の我儘なんて聞きたくない。彼を殺したくない…!死なせたくないのに…!
「お願いだから、ハルカ」
『や、だ…、』
「頼むよ、僕の死を返して。返してよ、キミの側に居たいんだよ。やっと、何ヶ月も、毎日皆を説得したんだから……ね?」
『嫌だ、やだってば……!』