第40章 悔いのない人生を
私の頭を抱えるように視界を塞ぐ、いや抱きしめる悟。
「──ああ、そうさ。極ノ番で僕から持っていった、あの"死"を返して欲しいんだ。
お願いだ、ハルカ……僕の痛みを返してよ…」
『そんなの、私…っ』
「もしも領域が無くなったらオマエと一緒に消えるだろう。それならいつか、共に生まれ変われる。なあ、もしものもしもの話だけれど、ふたりとも生まれ変われる事が出来たなら、次こそ互いに家も血もなんのしがらみもなく普通の人生を共に歩もうよ。
これは次の人生の予約だよ、愛してるからオマエに頼んでるんだ、ハルカ……」
『……、』
子供に言い聞かせるように優しく言ったって、彼が言いたい事を私は了承出来やしない。
生きて欲しい人に死を与えたくなんて無いじゃん。まだまだ死ぬには早い、悟にはもっと生きて欲しいんだし。
「ハルカ…、僕の最期の我儘を聞いて。お願いだから……」
返事はおろか頷く事も出来ない私をむぎゅ、と後頭部から彼の胸元に抱き寄せられた状態に、どうやら私の頭を撫でてる彼。甘えるように優しくおねだりする時のように「ねえ」と耳元で囁き、その声色は生前たくさん聞いた我儘を言う時の時だった。それで私はいつも折れてさ、悟の我儘に振り回されていた事を思い出したりして……。
……特に、セックスの時とか。
今日はしませんとか、一度した後にもう一回、もう一回って……。彼の我儘にはなかなか駄目なんて断りきれない……だからこんなに子供だ出来たのかもしれない、なんて思ってたりする。
視線だけ上を向いた。こちらを覗く覚悟を決めた澄んだ青空は一度瞬いて微笑む。
「なにも"殺せ"なんて言ってるんじゃあないよ?ただハルカが持っていった、同じ痛みを僕にくれてやれば良いんだ」
『死ぬでしょ…、実際に悟は死んでた、私だって……!』
「ああ、もちろん死ぬ。でもいいんだ、僕はそのつもりで覚悟して言ってるんだぜ?僕も生きてる時や死んだ後にひとりぼっちになるのは嫌だし、ハルカをひとりぼっちにしたくない…、」