第40章 悔いのない人生を
『我儘って。今更だなあ~……いつだって悟は我儘を言ってたでしょ?』
「はははっ…それもそうだねえ、僕はいつでもオマエに我儘を聞いてもらってたよ…思い返せばいつだって、オマエに我儘を言って迷惑をかけてさ!僕ももっとハルカの我儘を聞きたかった……。
でも、その僕の我儘も今回きりさ」
"今回きり…?"というまるで一生のお願いに近い彼の言葉に顔を上げれば、年をとっても変わらない、優しく微笑む至近距離の悟。
「──僕の死を返して?」
『……僕の死、て…』
その言葉の意味は、私が持っていった悟の死を彼に与えろ、という事。返した所で彼の死を持っていた、奪っていた私が今更どうなるってワケじゃないけれど。
生あるものに死を、なんて言うまでもなく殺すという事。
せっかく死んだ彼を生かし長生きしてくれと祈りながら散った私として、それは聞きたくない我儘だった。そりゃあ息子も娘も良い顔をするわけがない、悲しい顔をするでしょう。だって元気な父親が死にたい、と言ってるんだから。
もちろん首を横に振った。悟に死んで欲しくない、ましてや、私のせいで……!
『そんなの、嫌に決まってるでしょ…っ!返すワケがないじゃない!』
「ハルカ……、」
花を抱く腕に力を込める。物理的な身体の無い魂を補う、呪力がくしゃ、と力加減を間違い、花を潰して、花束から落ちたらしい花が足元に落ちたみたいで、足袋の上に軽いものがぱさっ、と落ちたらしい。花が…、と私の叔母が呟く視線は私の足元に注がれていた。
『私が生きてって願ったのに、悟は私の願いを踏みにじって死にたいって言いたいの…?残された子供達はどうすんの!』
「オマエの言葉を借りるなら、僕も充分に生きたんだ。もう、僕も息子に五条家を任せる事の出来る……しかも息子にも跡継ぎも出来た、ちょっとエネルギー切れのする五条悟……御歳六十ニのお爺ちゃんだぜ?
オマエの血を引く娘だって、強い子として末の鎹は強く逞しく、力量を分かる子に成長してる…」