第40章 悔いのない人生を
そんなやりとりをした後に満ちる呪力。
周囲の霧が立ち込める風景が少し遠ざかったのを見ると、久しぶりに会える!という素直に喜ぶ気持ちと、仕事が増えてしまったという家族達の想いを踏みにじるクズな考え。
ここに居ると新しい事に出会えなくて堂々巡りな病んだ考えばかりで荒んだ考えになりがちで嫌になる、と気を取り直し、その方向を振り向いた。
……そこにはいくつになったんだろう、優しそうなおじいさんになりかけた、五条家の着物を羽織った悟……しっかりと荒枝付き左三階松の家紋の入った五条家の着物を着て、和には不釣り合いないつもの薔薇を抱えてさ…。
彼の側には子供達が来ていた。子供達人数は前回のように減ることはなかったけれど。ただ減ることは無くても増えていた。赤ん坊を抱く長男を見ると遂に孫が出来たんだなあ…なんて次の世代を見て嬉しくもなる。
私達が出会い、愛し合い、生まれた二つの家の血は次の命へと繋がれて、五条家はこうして未来に進んでいるって事が悟の妻として、蒼空の母として誇りに思えた。
鎹の領域展開時のままの集合した密度の高い家族達からつかつかと急ぎ足でやって来た悟。やってくるなり花を私に差し出して、それを私が抱えるように受け取るというルーティン。その花束を抱える、彼側に見えるだろうその左手にはめ込まれるリング。
……この幸せなルーティンもきっと、あと五回もないだろうな、と考えてた時だった。
「ハルカ、ねえ、聞いて」
お爺さんになりかけでも口調は変わらず。
にこにこと笑う悟だけれど、その声色はゆっくりと宥めるように静かで、いつもふざけた事を言う彼にとっては真面目な事を言うタイミングだ、と私は彼の耳を傾けた。
『なに、どうしたの?』
悟が話し始めると、周りの子供達はどうしてか悲しそうな顔をしてた。なにを言い出すんだろう?身体は無くても、今の私に肉体があったとしたら心臓がばくばくとうるさかったに違いない。
花束を抱える私を話を続ける前にそっと抱きしめる悟。目の前の着物、素肌が近くて香りを感じられたのならばきっと良い香りがしただろうに……そこが残念だな、と感覚器がうまく機能しない人型の魂の自分の身体を恨む。
「僕の我儘を聞いて欲しい」