第40章 悔いのない人生を
そう言って撫でる手を止めた後に見上げた悟の顔。
少しだけむっとしながらも白いまつげを伏せ、視線を足元に移して。がさ、と音を立てる花束を私の胸元に「ん、」と言って押し付けてきて……。
「……僕は生涯、オマエしか愛さないもん。他の人は愛さねえよ…」
『別に、良いんだよ……?好きな人が居て、それを我慢しなくても。悟には悟の人生があるんだから、子供達を育てるにも大変だろうし…』
働きすぎな悟を支える人が必要だと、私はよーく知ってるから。私が居なくなった彼の生活は誰が支えてあげるのか、そして悟の暴走を誰が止めてくれるのか。
隣に居られる人がいれば良い……もっとも、五条悟という暴走機関車ゴーマスを私が止めきれていたかというとそうでもなかったんだけど。
彼は瞳を細めて微笑む。視線は合わず、足元だけど。
「ククッ…まあ、うん。我慢はしてるよ?ハルカの事が好きって我慢をね?だから、こうやって久しぶりに逢いに来たんだ…、僕は生きてても、死んでしまっても結局ハルカが好きなワケ!」
その足元へ下げられていた顔や視線を上げ、私ににかっ!と眩しい笑顔を見せた彼。押し付けられた花束をそっと私は受け取った。悟は目の前でおもむろにポケットから取り出したモノを、花束を抱える私の左手、薬指に私が見ている視線の中ではめ込む。
──感覚は無いけれどよく見たリング。呪物だー、とか言ってた、たくさんの思い出が詰まった結婚指輪……、ここに持ってこれなかったものの私の生涯の宝物の一つ。
「何度でも僕はハルカに恋してく、そんで僕が死んでもオマエを愛し続ける!
だからオマエも僕以外にうつつを抜かすなよ…って、ここには男は一人も居ないけどさ?」
『……そうだね、うん。ありがと』
青と白の薔薇を引き寄せ、左手の甲…薬指の私達を縛る"呪物"を見て私は嬉しくて笑った。顔を上げれば悟も笑って、さっき私がしたように頭をわしわしと撫でてるみたい。全てを白に染めた私の髪が乱れて視界に髪が掛かってる。
両手が塞がってるからこそ髪を整えられないんですが。「女の子なんだから髪の毛ボサボサにしちゃ駄目でしょ~?」と数秒前に悟によってぐちゃぐちゃにされた髪をせっせと整えてくれる悟。
……うん、誰がボサボサにしたんだろうね??