第40章 悔いのない人生を
悲しいけれど、私は"あんまりここに来ちゃ駄目だよ"と伝えた。
顔は見れない、私自身ですぐに俯いたから。
せっかく家族揃って逢いに来て、母親に、妻に拒絶されるなんて思ってなかったでしょう。本来ならば死んだ人に会えるという事自体がレアケースなんだ。
だから私はその特別な再会の場に居る事で心の奥底に来て欲しいって気持ちもあったから今、ここに来てる家族に"二度と来るな"とは流石に言えなかった……。
強制的に顔を上げられるように、悟に両手で頬を挟まれて斜め上を向かされた。目の前の悟はにこ、といつもみたいに笑ってる。
「……分かった。それは年に一度……も多い方なんだろ?」
『……』
それは、なんとも言えない。時間の感覚が分からないもの。
無言で頷きもしない私をクスッ、と瞳を細めて笑う彼。
「じゃあ……時々だ。時々、こうして結婚記念日に花束持って、家族みんなでオマエに会いに来る!絶対に、絶対に僕はハルカに会いに来るからねっ!?約束するよ、なんなら縛りを使ってでも良いぜ~?」
笑ってるのに泣きそうな顔をした悟が急接近して、すっ…と瞳を閉じていた。
『(……あ)』
顔が遠ざかる。微笑む悟は満足げな笑顔を浮かべて片手を、ここに来た時の鎹のように挙げて見せた。そこでやっと彼によってキスをされたんだと理解した時、手を振る子供達と悟はまた今度、と消えていく。
その家族達が消えていくのと同じく、私が抱えた花も溶けるように、さら…と消えてただ両腕を見つめていた。
『……ありがとう、』
その家族に向けた言葉は私と、少し離れた位置から静かに見守っていた皆の耳に届く。今度来た時に、もう一度感謝の気持ちを伝えよう。
せっかく会えたこの奇跡。
鎹が現世から運んできた呪力をとりあえずは使い切るために私はまた仕事に励む。以前よりも少しだけ前向きにやる気になりながら……。