第37章 繋ぐいのち、五条と春日の鎹
周囲に乳撒き散らして何してくれてんだ、この子供は!と急いで拭き取ろうとティッシュを一枚取っている隙に抱きかかえる子供の足元付近、片方の胸に顔を埋める男。
『あ、こらっ』
隣ではやわやわと吸ってるのに対し、大きな頭の白髪頭が吸い付く。ジュッ、と吸ったのちに嚥下する音。
先程の笑顔はいずこ…?微妙な顔で見上げた悟。目が泳ぎ夢中になって未だ吸い続ける隣の息子を見て。
「ミルキーの味と程遠いじゃん。あっさりしてんねえ…赤ちゃんにとっては美味しいものなん?なんだよ、不○家~…過大評価しすぎだろ、誇大広告してますよっつってJAROに報告か?」
『恥ずかしいからやめて』
でも飲んじゃう!と再び顔を埋めて、小さい乳児とデカイ成人男性が左右で乳を吸ってる光景。呆れるわあ……とツッコむにも疲れて、黙って吸われていればコンコンという物音に授乳中の子供達(?)から顔を上げ、ドアを向いた。
産後の気が抜いた悟と息子との空間に実家のような安心感で忘れていたけれどここはマンションでも高専の寮でもない、産婦人科の一室……やばい、色々と準備が…!という所でドアを開け、その人物達が入ってきてしまい、足を止めた傑と硝子。
はい、目が合ってしまったのが私の運の尽きですよ。
……悟の運の尽き?奇行は充分に知られてるから関係ないでしょ…。
苦笑いする傑と、真顔の硝子。ドアから入ってきたは良いけれど足をこちらに進めることなく止めたまま。
「……双子の授乳中かあー…私達、出直した方が良いかな?」
『違います!でっかい子供が勝手に吸いたいと……っ』
「ははっ、私もこれには引くわ~」
傑と硝子がやってきて静かにドアを締め、真顔でこちらを見てる。
そのタイミングでもうお腹を満たしたらしい蒼空が離れ、隣はいつまでも離れない。よし、指導の時間かな?
蒼空が離れた事でそそくさと服で胸元を隠し、自身の拳を握り締め、そこにハァーっと吐息を掛けて気合いを入れた。後は振り下ろすだけよ……。
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痛むであろう頭頂部を片手で何度も擦りながら子供を片腕でしっかりと抱えた悟。
軽蔑した視線を送りながら「クズが」と一度笑った硝子が私のベッド側の椅子に座り、立って子供を揺すってる悟の腕の中を覗き込む傑の姿。私達の間に生まれた息子の顔を見た傑は微笑んでいた。
