第37章 繋ぐいのち、五条と春日の鎹
……マッサージってなんだっけ?というゲシュタルト崩壊レベルの勢いで拷問のようなマッサージを受け終え、出産ほどじゃないと思うけどHPを削られた気分の私は、今こそ張ったものをなんとか出来る方法として両手を出し、悟に我が子のパスを促した。
産んだんだ、ここは体がご用意させて頂きましたと準備してんだから子供に母乳を飲ませるしかない。
私が手を差し伸べると嫌、と言いそうな表情の悟は独り占めするように半歩私から遠ざかり、タオル生地で包まれた子供を揺すってる。
「えー?もっと抱っこしてたいんだけど?ミルクは僕が代わりに飲めば良い?」
『馬鹿言ってるんじゃないよ、多分そのままじゃ泣き止まないでしょ!お腹減ってんだよ、多分。
悟は成人用の食事を摂ってくださいねー?』
へその緒からの栄養補給経路は断たれて、これからは自分の口で摂る。
お腹減ってるんだ、と緩めた胸元をもう少し晒してもう一度悟に手を出した。きょとんとしながらに胸元と息子の顔を見てる悟。その間もずっとおわぁ、おわぁ、と大きな声で泣く蒼空。
『今、蒼空を黙らせるから』
「なんでいちいち暗雲立ち込めるヤンキーじみた事言うのさ?レディースは怖いでちゅね~、ママみたいなヤンキーガールを彼女にしちゃいけまちぇんよー?」
『だからレディースじゃねえっつってんでしょ。ほら、』
小鳥みたいに口を尖らせ名残惜しそうにそっと手渡す悟。大きな口で泣き、時々見える青い瞳が閉じた瞬間に目尻から涙が流れる小さな顔。口元に胸を近づかせると泣く声はぴた、と収まり母乳を吸い始める。
……これが産まれて初めての食事…って事なんだね。
乳首というより、そこ周辺を口で覆ってむにゅむにゅと顎を動かし飲んでる姿を見て、少しばかり母親になったんだなあ…という自覚が沸いてくる。そして愛おしさも。
……それから、えっちの時によく悟が「乳首だけで感じるとか赤ちゃん生まれた時どうすんの?」って嗤ってたけど、体感してその答えを知った。吸い方全然違うでしょ、と無言でそっと当人を見る。
悟は感激したみたいに本能で母乳を夢中になって吸ってる子供を、まるで動物園の珍しい動物を観察している、子供みたいな大人状態だった。