第37章 繋ぐいのち、五条と春日の鎹
ふふ、と笑った彼女にこれまで耐えてきた痛みはなくなったのを見た。母は強し、ハルカのまた新しい一面を見られて嬉しくもなる。近付いて彼女の額にちゅっ、と口付けたらハルカは少し照れてた。
可愛い様子の奥さんから視線をむずむずと手足を動かすタオルへと向ける。小さな手足を動かすものだからタオルが歪になってるんですけど?
顔を出す隙間からすぽ、と抜け出した腕。ハルカがそんな蒼空を抱っこして、小さな手がハルカの顔へ伸びるも短くってさ!
その短くも小さな手には細くてとっても短い指があって……よく見ればちっちゃい爪だって生えてて。
こんなに小さなものをよく抱きかかえるなあ、と観察すれば彼女は僕を見上げて微笑んだ。
『悟、ほら抱っこ』
「えっ、ぼ、僕ぅ…?」
自身で指差して見ればうんと頷くママ。そっと手を出して、受け取って……その小さな重みを識って。よく考えればこの大きさをあの狭い穴から生み出すなんてどういう原理なんだ?って人間の身体に疑問にもなるけど。
静かにもぞもぞとまた短い腕を伸ばす息子。片腕でしっかり支えながら指先でその手に触れた瞬間に僕の人差し指は子供にきゅっと掴まれて、その瞬間に心臓を掴まれたようにも錯覚した。
この最強の僕に攻撃するとは何事ナリー。
……っべー、可愛い、全人類の子供暫定一位、いやまごうことなくトップを飾る可愛さだろ。
「……」
『……なんか、情報が完結してないって顔してんの、ウケるんですけど』
「当たり前じゃん。この子は五条と、遠い禪院から続いた春日を結ぶ子。僕とハルカを繋ぐ子なんだよ。言わば、そう。キミんとこの初代のように、なにかとなにかを繋ぐモノ……"鎹"ってヤツだね!」
ウインクをしてみれば彼女は笑う。『上手い事言うなあ…』なんて言ってさ。
むずむずと伸ばした息子の短い手。見えるように屈んでハルカに見せればそのもう片手にハルカも指を差し出し、蒼空がぎゅっと僕らを繋ぎ止める。
子はかすがい、とは聞くけれどリアルに体験するなんて想像してもいなかった。
五条悟と五条ハルカの間を繋ぐひとつめの鎹。
まだ世界に生まれたてである蒼空は、僕らと同じ白銀の髪に少し色の薄い、僕に良く似た青い瞳と時々見せながら元気に大きな声でほぎゃあ、おぎゃあと泣いた。