第37章 繋ぐいのち、五条と春日の鎹
僕のわがままでさ、頼んで分娩室に入らせて貰ったのは良いけれど。
……はあー…、こんな戦場に僕が来た事で手助けになんて、なるのかなあ……?この慌ただしい現場に圧倒されながら重い足取りで彼女の側に行き、シーツを握り締めて皺を掴んでいた冷たい華奢な手を掴むと僕の震える手を握らせた。
デートの時やえっちの時に何度も繋いだ手。今はこれだけしか願えないけどこの繋いだ手に"頑張って"としか…。
『さと…るっ…!』
目尻からまたひとつ涙をこぼしたハルカ。困ったような眉で視線が僕へと向けられてる。
「大丈夫、大丈夫だから。僕が側に居るからね……!」
口から飛び出た言葉。自分で言っててさあ…何が大丈夫なんだろうね?僕だって怖いさ、命がけで産もうとしてくれてるハルカ。出産で死んでしまう母親だって居るんだ……、それほどまでに過酷な人生のイベント。
ここに僕が居ることでハルカに声を掛けるか、手を握るかくらいしか出来ないんだけれど。せめて気を失ったりしないように僕は医者の言うことを繰り返して口にした。
僕が出禁食らってた間もここでずっと戦ってたんだ。痛みに耐えきれずボロボロに泣いて、潤んだ瞳。ふと笑って『握りつぶしちゃうかも』と妙な心配をするハルカに思わず笑って出来るもんならやってみな、と返したら彼女は苦しみの中で笑ってた。
お腹に掛けられた下半身を隠すタオル。その開いた脚の間で注意深く先生達、病院のスタッフが覗き込んで息を整えるタイミング・そして踏ん張るタイミングを何度も調整してる。
一度、ハルカは電源が切れた人形みたいにくた…、と気絶する事もあった。痛みに耐えきれなかったんだろうね、「ハルカ、起きて!」って起こされてすぐにまた出産に立ち向かう彼女はすごく逞しくて。
「ほら、ナマーズ法!」
『ラマーズ、だろっ……うっ…い、たぁ…』