第37章 繋ぐいのち、五条と春日の鎹
365.
ハルカの中でいよいよ子供を外へと送り出す準備が整って。
分娩室のドア越しに聴こえる、痛みによる呻き声。僕の見えない所でひとりだけそう苦しんで負担をやっぱり掛けるのは流石の僕でも気が引けるよ…。
恥なんて今は捨ててさ、僕は側に居たいんだ。廊下のベンチにじっと座っていられずうろうろと通路を往復し、頼み込んではスタッフを挟んでの「駄目です」を何度聞いた事か。
挫けずにどうしても側に居たいんだって何度も頼み込み、ややキレ気味なスタッフにまた拒否されるって時だった。
中に居るハルカが僕らを繋ぐ伝言係のスタッフを通じる事なく、彼女自身の大きな声で『さっさと来い!』って叫んでた。
許すの遅いよー、十回は頼んだんだけどっ!
「……はあ…、だそうですので、こちらに来て着替えと消毒をお願いしますね、旦那さん」
「ん、了解!」
案内されて急いで僕は着替えてさ。感染症予防に徹底してるなあ……まあ安心できるママから寒くて危険な外に出るから見えないものにも気を付けないとなんだろうね。初診の時から良くして貰ったらしいし、この産婦人科は評判も良いらしいし。その徹底さの中で僕は着替えや消毒を済ませた部屋の更に隣へと進む。
──分娩室に入ればそこは僕が想像していたより戦場だった。
ハルカに笑ってもらえるかなって、色んなネタを頭の中で用意してさー……、ほら、お腹から外へ、胎児から卒業して新生児として生まれでてくるんだから、武田鉄矢のモノマネしながら「くれーなずむータウンの~♪ライトとシャドウの~中~♪」とか怒られるギリギリな事したり、ブラックジャックのモノマネでもしようかと思ったのにね。
……あまりにも酷く痛そうに何度も痛い、痛いと呻く彼女。
不安だとか寂しさがあるだろうって、笑い飛ばすどころじゃないんだ…、今までで一番辛そうで分娩室へと入室後、立ち止まった僕は拳をぎりっ、と握りしめる。痛みに泣いて、噎せて…呼吸が乱れ、喘いでて…。
何度も深呼吸!と注意を受けては呼吸を整えて…苦しそうなハルカ…。