第37章 繋ぐいのち、五条と春日の鎹
「なんだそんな事~?平気平気~死んだオマエの意識が戻ってない時に"そっち"の世話もしてるから!モーマンタイっ」
一瞬の沈黙。スタッフが小さく「死…?」と首を傾げる。ああ、そっか。普通死にかけるって事ないもんねえ、非術師は命を賭ける日常なんて無いんだった。
ハルカがショックを受けたような、鳩に豆鉄砲の如く真顔で僕を見た。
『……え…、そっちの世話って…もしかして、』
「あー…これハルカがショック受けるから絶対に言うなよって硝子に念を押されたっけ。
でもさあ、生まれてくるのが赤ちゃんの頭だろうがオマエのウン……有機物だろうが出せるモンは出せば良いじゃん。元気にYOU!生み出しちゃいなYO!」
両手でゲッツ!とウインクをしながらハルカを指差せば、真っ赤になって恥ずかしさとか怒りで小刻みに震えた彼女が部屋を移動直前になって呪言ばりに『死ね!』と大声で叫び、おばちゃんに付き添われて分娩室へと向かってしまった。
……やっべぇ、恥ずかしがってるを怒りが上回ってたでしょ。傑との浮気を疑った時以来の激おこっぷりに特級呪術師である僕でも流石にちょっと怖かったです。
「……はあ~…、」
ぽつーん。家から持ってきた荷物と共に僕も置き去りにされちゃった。
来るな、と言いたげに死ね、とか言われて取り残された僕と生まれる予兆が出て分娩室に向かった彼女。ポリポリと後頭部を掻きつつ、とりあえず周囲の警備の電話を入れておくか、とスマホを取りつつ。
「なにもそこまで怒らなくてもさあ~……まあ、つい内緒にしてた事口走っちゃった僕も悪いけど。しばらくは怒ってるだろうけど…時間が経ったらハルカも許してくれるよね、多分……」
……拒絶されても僕はさ、辛い時のオマエの側に居てやりたい。その気持ちは怒られても変わることはないんだぜ?
「うん、決めた。駄目って言われてもしばらくしたら付き添いに行こ………夫を入れないで下さい!とかって出禁、されてないと良いなあ~…」
初めてのイベント、家族を生み出すのに不安なのは違いない。寂しん坊な彼女の側に居ないと……と僕はあえて時間を開け、彼女の元に行くことを決めた。