第22章 キミは蜘蛛の巣に掛かった蝶
繰り返し『美味しい!』といえば「でっしょー?」と私を指差しながらジョッキ生を追加してる歌姫。
これはお土産に買っていって後で部屋で食べても美味しい……、これ焼き鳥テイクアウトして弁当に詰めれば良いのでは。もし次回があって、翌日が学校ならばその手も考えよう。
うまいうまいとひとくち食べる毎に煉獄さんの如く"うまい"を私は連呼していた。ここは座敷の奥のテーブル。向かい合って食べている歌姫が頬杖をつき、片手に握りしめる重いジョッキをドンッ!と音を慣らしながら私に質問してきた。
「……どう?こっちでの活動は不便じゃない?ちゃんとやっていけてる?」
串入れに今食べた、たれ焼きのぼんじりが無くなった串を突っ込みジョッキを握りしめてぐっ、とふたくち飲む。
そっと、あまり大きな音を立てないように、とゴト、と丁寧に置いて歌姫を見、ニヤリと笑っておく。
『モーマンタイ、皆さんに支えられつつも常連客まで出来ました』
商売ってワケじゃないんだけれど。皆勤賞がいるもんで、つい。
私の言葉に歌姫は少し吹きそうになって笑う。
「ぷっ、常連て。そんなに毎度怪我する人高専にいる~?」
『ふっふっふ、居るんですよぉ、これが。歌姫さんも良く知ってるお方です、名前はプライバシーの保護の為伏せますけれど』
ぼんじり美味しかったけれど重いな、皮も重いか。さっぱりさせたくてねぎまの塩焼きの串を摘む。口に入れてからお新香でも良かったわな、とプチ後悔しつつまあいいや…と、ゴッ、とゆっくりジョッキの持ち上がる音。明後日の方向を向いた歌姫がごくり、とひとくち飲んでジョッキを置く。
そのままに私をじっと見た。
「えっ、うーん……誰かしら?生徒?補助監督生?」
『あー…うん、それらとは違う、あっノーコメントノーヒントでお願いいたします』
「高専卒業生?窓?ねえねえ気になる、なにかヒントないの?」
前のめりに食いついてくる歌姫。へらっ、と笑いつつ手をちょっと突き出し首を横に振った。険しい顔しとこ。