第22章 キミは蜘蛛の巣に掛かった蝶
「ひとついいカ?五条ハルカ」
『……ハルカでオナシャス…ちょっとまだ気恥ずかしくて……』
頭を掻きつつ逃げるように視線を反らすと、「ハルカ、」とメカ丸が言い直したのでメカ丸を見上げる。
「その春日ノ呪術ハどこまデ出来ル?無い腕や脚等ヲ作る事ハ出来るのカ?」
『……』
なんとも妙な言い回しだな…と、くるりと椅子を回転させて振り向かずに視界に入るようにして、座ったままに見上げる。表情は特にないから操る側がリアクションを積まない限りわからない。
うーん、どこまで出来るか……なんて言えば良いのやら。少し過去の苦い出来事を思い出しながら、言葉を頭の中でなんとかまとめてどんどん口に出していく。
『生まれつきあるものを失えば再生は可能、ですかね……無いものを、例えば普通の人間に更に腕を生やすキメラみたいなものとか、鳥みたいな羽を作り出すオプションだとか、生まれつき腕が無い人に腕を作り出すとか。そういうのは対象外みたいです。"負"ではないってみなされるんですかね…。
それから怪我以外にも風邪だとか二日酔いなども回復が出来ます。負傷した臓器の再生だとかも。
あ……これ、捕まってる時に実験として強要されたんで、予想じゃなくて確実に言える事なんですけれど……』
彼の求めるものが私の言葉にあったかどうかは分からないけれど、静かに聞いていたメカ丸は少し、頭部が項垂れたようにカシャと軋ませていた。
「……ソウカ。分かっタ。なるほどナ」
またもう一段頭が少し下を向いて正面を見てるみたいだ。表情がなくとも動作が人そのものでがっかりしてる、そう私には感じられた。
「……メカ丸…、」
しゅん、とした空気の中でこんこん、というノック音。私達の誰もがそのドアの方向へと頭を向ける。
あー…まさかのまさかかなあ。そう思いながら、ふたりを見上げて私は苦笑いをして。
『……どうぞー』
ガラ、と開けて入ってきたのは本日もやって来た楽巌寺学長。はい、皆勤賞です。紙袋を下げてる……達筆な店名のロゴ、多分ちょっとお高めなお菓子ではないかと予想される。
更に妙な空気になりつつも、いつものように私は不調を治すことになった。