第22章 キミは蜘蛛の巣に掛かった蝶
そんな進化されてもさあ…。掴まれた手首をじっと見てから悟の悲願するような瞳を見た。
『来ちゃったものは仕方ないでしょうが。月イチで必ず来るのは嬉しいもんだよ、痛くて面倒くさいけれど』
たちまちぶすくれた顔で口を尖らせる悟。私の片手をきゅっと掴んだまま。
「……来なくて嬉しくなるのは卒業後かオマエがやらかして約束破った時だろー?生理明けにめちゃくちゃヤりまくってやる…」
『ほどほどにしておけよ~?……で、悟。今何煮込んでんの?なんかいい匂いを通り越してちょっと煮詰めてる的な……』
遠回しであるけれど、ちょっと焦がしたような香ばしい匂いが漂ってる。
キッチン方向をじっと見れば蒸気が鍋からもくもくと出ているのが見えた。掴まれていた大きく暖かい悟の手は私の手首から離れて、悟がキッチンに小走りで……しかも乙女走りで向かっていく。どこまで演技を打ち込んでいくんだ、この人は…。
「キャー!せっかくの愛情たっぷりの肉じゃがが焦げちゃうわン!」
『キャー、て。焦げちゃうわンて……』
フリルエプロンだからってキャラ付けに忠実にならなくても……と呆れつつ、スカートを脱ぎ、ストッキングを脱ぎながら悟の奇行を見守った。
火を止め、ぱか、と蓋を明けると白いモヤに包まれてる悟。
『……ぷぷっ、浦島太郎のラストシーンかな…』
「なんか言った!?」
『なんでもないです、続きどうぞ』
こっちを振り返って、私の言葉を聞いた後はすぐに鍋に視線を移してる。
ハーフパンツを履き、すこしぶかぶかのパーカーを着て悟の側へと駆け寄った。
『自称天才も失敗した感じ?めずらしー、写真撮っとこ!グループトークに回しとこっ!』
「やめて?」
なんでもこなしちゃう彼の貴重なシーンでは?と悟の腕を掴んで隣からひょい、と覗き込むとより強い少し焦げたような香りを放つ料理。パッと見異変はなさそうだけれど、菜箸で確認してる箸先を見れば黒ずむところが見える。縁辺りの液体が干上がった所からか、とうんうん頷く。
鍋の中身から私に顔を向ける悟はちょっとだけ不機嫌そうで。
「天才も人の子だったって事だろ?むしろあざと可愛い五条悟っていうか?」
『自分で言ってて恥ずかしくない?』
見上げるとばちん!とウインクをする彼。どうやら自信たっぷりのようですね、ハイ。
