【FF15】 同じ夢を、あなたと (イグニス・R18)
第26章 執着
確かに彼女が私の立場に気付いた様子はない。ただ大股で肩をいからせてキッチンへと去っていく様子に、とにかく怒り心頭ということはハッキリとわかる。
そもそもショックを受けて落ち込むのはまだしも、怒りの感情をこちらに向けることはお門違いなのだからイグニスの見立ては間違ってなさそう。
「安心したか?」
「うん…ありがとう」
「なら良い。折角の機会だ、このままオレが食べさせてやろうか?」
「そこまでしなくていーでーす。ほら、イグニスこそ早く飲まないとせっかくのエボニーが氷で薄まるよ?」
「これはこれは。グレイス王女殿下直々のお心遣い、痛み入ります」
急に仰々しい口調での王女扱いに もう! と肘で小突けば、イグニスが口を大きく開けて「ははは」と笑う。それを見て私も ふふっ、と口元が緩んだ。
「…やっと、笑ったな。
この店に入ってからしばらく口角が下がったり、拗ねたように唇をツンとさせてばかりだった」
「えぇ…そうだった? よく見てるね」
「当然だ。グレイスのことは1秒でも多く見ていたい。それにそこは表情豊かなだけではなくて…」
不意にス、とイグニスの長い指が顔の前に差し出された。
「…なくて?」
「とても甘くて柔らかい、魅力的な場所だからな」
「……ッ!」
スルリ、私の下唇を指先で撫でながら耳元にそう囁かれた。
もう、その途端にプシューと湯気が出そうなくらい顔が赤くなってる自覚がして、咄嗟にイグニスの肩口に顔を埋めるように隠せば、温かく大きな手が私の肩をぽんぽんと包み抱きながら満足そうに笑う。
そして「まぁ、それはオレだけが知っていれば良いことだ」と涼しい顔で彼は正面を向き直し、エボニーコーヒーに手を伸ばしていた。