第8章 ジム巡り②
【ダンデ視点】
いつもこなしているトレーニングメニューを、彼女とバトルをした後で俺はもっと増やした。ポケモンたちに合わせたメニューも見直して、次のチャンピオンカップはまだまだまだ先だというのに、俺は目を瞑ってあの時のバトルを思い出した。
引き分けで終わったが、今までにない手応えを感じたのは確かだ。
キバナとはまた違う強さをもつ彼女は、万全でなかったとはいえ、お互い傷付かずに終わったバトルはマスタード師匠以来の時かもしれない。
流れ的には俺が押しているように見えるが、彼女はしっかりと戦況を理解していたと思う。
彼女はまだガラル地方に来て数ヶ月だが、ジム巡りでの動画やこの間のバトルを見る限り、彼女のガラル地方のポケモンへの対処や相性はよく勉強している。
そして何より、ポケモンの話をしているときの彼女は本当に楽しそうだった。
話を聞いていると、本当に好きだという気持ちが伝わってきた。
だからバトルを通して彼女を見たかった。誰かとのじゃなく、直接戦えばわかると思ったからだ。そうすれば彼女の本質を知れると思った。
『…負けるのが、怖いのか?』
そう聞くと、彼女は全てを遮断するように閉じ籠った。触れたら壊れてしまいそうなほど、何かに怯えているようにも見えた。それ以上は踏み込めなくて、有耶無耶になってしまったが…。
「ふっ…はぁ……」
重たいダンベルを床に置いて、首に巻いたタオルで汗を拭いた。
少しボーッとする意識を振り払い、窓から見える夕焼けの景色を見ると、彼女を思い出す。胸の奥がポカポカして、またいろんな話をしたい。
「…、らしくないな」
さぁもう3セット頑張ろう。
俺は雑念を払うように、床に転がっているダンベルを手にした。