第8章 ジム巡り②
あれからはどうやってポケモンセンターに戻ってきたか覚えていなかった。トレーナーのために用意された寝室の一室に入ってから、は琴切れたようにベッドに沈み込んだ。
エレズンは自分と一緒になだれ込まないように、そっと枕元に置いてくれたをオロオロしながら見守った。が、部屋が薄暗くなってきても動く気配がなく、エレズンはのカバンを漁り、適当にとったモンスターボールを投げた。
--ポカン、とそのボールから出てきたのは、鈍い赤い色をした鋼の体、両の手には大きなハサミを持ったハッサムだった。
ジロリと自分を見下ろす黄色い瞳に、エレズンはブルブル震えた。
「……エ、エレ…」
エレズンは何度かキャンプでハッサムを目にしたことがあったが、ゲンガーのようにニッコリと自分に笑顔をむけることもしない。時々自分を見つめる黄色い瞳が、自分の心臓を嫌にドキドキさせて怖かった。
しかし、今はの様子がおかしく、自分がいくら頭を揺らしても「ごめん…」としか溢さないことで、不安が募っていた。もう自分では彼女をどうにもできないのだと悟ったエレズンは、ゲンガーか、シビルドンが出ますようにと願いながらボールを探したが、まさか自分が一番苦手な相手が出るとは思いもしなかった。
「エレ…エレレ!エレ!!」
それでもエレズンはこの状況をどうにかしたかった。
この張り詰めた空気の部屋を、落ち込んでいるをどうにかしたいと必死だった。ハッサムが怖いとかどうか、もうどうでもいいとさえ思った。
ただ必死に主人が落ち込んで、自分ではどうにもできなくて助けて欲しいと必死に訴えかけた。ボロボロと自分の目から涙が溢れようが、構わず訴えた。
すると、自分の頭にヒヤリと冷たい何かがソッと押し当てられ、エレズンは顔を上にあげた。その自分の頭に当てられた赤いものを目で追うと、自分に目線を合わせてひざまづいているハッサムと目が合った。
ハッサムはコクっと頷くと、自分の頭に置いていた手を鞄の方に伸ばし、一つのモンスターボールを挟み、もう片方のハサミでカチリとボタンを押した。
エレズンは目を見開いた。
出てきたのは、自分の何倍も大きな体と翼、鮮やかなオレンジ色、そして尾に炎を灯した龍だった。