第11章 ラングラー
ー治sideー
『治くん、あの波そこで崩れるからそれに、乗って。
しっかりパドリングして、でも慌てないで。あとは波を、感じて』
ゆったりした口調で、でも手短に要件だけって感じで穂波ちゃんが言った。
言われた通りにその波が崩れて立った白い泡みたいな波に乗る。
乗って、しっかりパドリングした。
…全部言われた通りにやったった。
「なにこれ、やっば! 気持ちえーなー!!」
『んねー! やったぁ』
さっきまでも普通に気持ちえかったけど、全然ちゃうわ。
まじで気持ちいい。
自分が波の妨げにも、波が自分の妨げにもなってないみたいな。
「穂波、俺にも」
「じゃー次俺もー! やっぱ波を見るってのが大前提なんだなー!」
「そうやな、研磨くんはやっぱ、そういうのがそもそも得意なんやろな、やから」
少し離れたとこで、一人でまた乗ってるわ。
誰が想像すんの、研磨くんがサーフィンしてる姿なんて。
ほんでも別にやっとることが違うってだけで研磨くん自体が変わらんから、
妙に、違和感とかないんねや。 それが研磨くんのおもろいなー思うところ。
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それから何度も乗った。
乗ったいうても腹這いで押されるのをな、なんべんも何べんも。
波のスピード感とかと同調する感じ半端ない。
『みんな、いい感じ〜♡ んー、ほんと、最高♡ 明日は朝からテイクオフ、やってみよっか♡』
「あーそっか、もう今日は無理かぁ」
『無理じゃないけど、今から新しいことやるより、今日はこのままチルする方がいいかなぁって』
「まぁ確かに。 …けど」
「穂波ちゃんまだ全然サーフィンしてないじゃん」
『いいのいいの♡ わたしはこうしてたまに浮くだけで…』
「いーや、俺が嫌や! 穂波ちゃんサーフィンしとるとこみたい、単純に」
「俺も〜」
「俺も〜!」
「おれも」
「明日のモチベーションアップも兼ねて、たのんまーす!」
顔まで見られへんやろうけど。
でもカメラのレンズ通したらちょっとは見えるかもしれんし。
それに、多分遠くからでも、なんか違って見えるんちゃうかなって思う。