第7章 su casa
ー研磨sideー
おれ、家借りたばっかで、
これから引っ越すって段階で。
まだ仕事も始まってなくて、
始めれるように資金集め、みたいな段階で。
穂波と暮らすって言っても数ヶ月で、
それから4年間くらいは遠距離の予定で。
なのに、いつか、もしかして家を建てるなら…とか考えてる。
ほんと、たまに出てくる。
ふわふわしてるのに妙に具体的で余計にまずいやつ…
その考えてたことが、思わず口をついて出てきそうになって、
それを誤魔化そうとしたけどなに言ってるか意味わかんなくなった。
イタいやつ……
でも穂波と話してたらそういう残念な感じは1ミリもなくなっていく。
溶けていくみたいな、飽和されてくみたいな感じ。
ま、いいや。
ていうかこの店、うまい。
「穂波いつもおじさんよりだから、こういうとこ一緒に来るの新鮮」
『ふふ。 美味しいね』
「うん」
火曜のレッスンの日はここでテイクアウトしたり食べて帰ることが多いって言ってた。
国立に越してからも当面通うつもりらしい。週3レッスン4つと、週1の教える方。
『アイス屋さん、もう一回行っておきたいなぁ』
「そうだね」
『実家近いしきっとまだ何度もいけるけど、何となく』
「うん、どこかで行こ」
何回行ったかわかんないくらい行った店。
これからもあるといいな、とか、手前勝手な願いが浮かぶ。
穂波に出会わなければ、実家の近くでも行かなかったとこいっぱいある。
アイス屋も花屋も。桜並木も。夏の甘味処も。
「新しい家の周り、ゆっくり散策しよう。時間ある時に」
『うん!お花見もしようね』
「だね、花見もしよう。大学通りの並木ってあれ、桜?」
『ね、桜の木だったよね。綺麗だろうなぁ♡』
おれ穂波と一緒にいるようになって知ったけど
桜って花はもちろん、散った花びらも綺麗だし、
新緑も、それから紅葉も綺麗なんだ。
『…というかあの辺りに大学があるんだよね?すごいね、緑豊かだね』
「…ん」
あり得ないけど。
穂波と通えたら良いのに、とか。
今更、チョット思った。