第16章 釘
──『侑くん、わたしに出会ってくれてありがとう』
真っ直ぐに俺の目を見つめて、
めっちゃ綺麗な表情で。
『だいすき』
「………」
『…それ、じゃあ』
後頭部に手を添えて、ぐっと胸に抱き寄せた。
少しそのままにした後で、肩に手を添えてちゃんと目を見て言った。
「穂波ちゃん、出会えてほんまに嬉しい。
めっちゃ好き。 愛してる。 これからも、多分ずっと変わらん」
『…うん、ありがとう。 でもね、』
「これから先、いつか、他に好きな人ができても、今のは嘘にはならん」
『うん、わかってる。 ありがとう』
「…ん、じゃああんまり長引かせても名残惜しくなるだけやし……」
『うん』
「……ほっぺにちゅっで別れよか」
『…ん、いいね 笑』
「じゃあ…俺か……」
俺から行こうと思ったところに、
穂波ちゃんが先にちゅってしてきた。
うわやられた、思ってたらニヤっていたずらに笑う穂波ちゃんがおって。
『奪っちゃった♡』
「なんそれ!ずる!」
『ふははっ』
「ほんなら俺も」
楽しそうに油断しとる穂波ちゃんの口にちゅってしたった。
『なっ』
「奪っちゃった♡」
『何それ、ルール違反!』
「先に破ったのはそっちやろ」
『ずるい!わたしも…』
ってまたキスしてまいそうになる穂波ちゃんをさっと避けて。
穂波ちゃんもはっとしたような顔して。
『次再会したときは、わたしが先にするからね?』
「どこに、何を?」
『…く …ほっぺにキスを』
「ん、お利口さん」
『………』
ほんでもっかいぎゅってハグをして、
じゃあまたね、ってそれぞれの方向に進んでいった。
振り返って見えんくなるまで、とも思った。
でもそんなんしたら走って追いかけてもっかい抱き寄せてキスしてまう。
次は軽いもんで済ませれん。帰りたくなくなる、大学行かせたくなくなる。
それが目に見えとったから、振り向かず真っ直ぐ歩いた。