第16章 釘
それから家に着くまでの間、俺ら何度もキスをした。
お互いにサーフボードを腕に抱えて砂浜歩きながら、
空いとる手を繋いで、お互いに近づいて。
立ち止まって、
オレンジと赤と紫と濃ゆい青のグラデーションになった空を眺めたあと、
俺が後頭部に手を添えて。
車について、まだ空綺麗やからって自撮りしよーって誘って
何枚目かんとこで奪うように、ふいうちに俺から。
ショッピングモールでカート押しながら。
会計後腕に買ったもん抱えながら。
ショッピングモールん中で普通にキスできてまうのとか、
ほんまええ土地やな、ええ文化やなって思う。
だって好きやともう、いつだってしたくなるやん。
キスが、キス単体としてのコミュニケーションツールになってく感じ。
車ん中でも。
家着いて、サーフボードを洗いながらお互いに水かけあって、
はしゃいだ延長でそのまま。
こん時はあぶなかった。
身体寄せ合って、濡れた身体探り合って、キスが深くなってってまうから、
そのままそういう流れに行ってまうとこやった。
ほんで、今。
シャワー済ませて、台所。
穂波ちゃんは背中がぱっくり開いた、
生成りのワンピースを着て台所におる。
俺は、肩とか首筋に軽いキスを落としながら後ろからハグしとる。
初日みたいやけど、全然ちゃう、時間。体感覚。
「…なぁ、1週間ずっとのこったな」
『…んー?』
穂波ちゃんの頭に顎乗せて話しかけるんやけど、
穂波ちゃんは何のことかまだわからんらしい。
「…俺がおらんくなっても、しばらく残るようにもっぺんだけあかん?」
『…なんのこと 笑 侑くん、ちょっとお邪魔です 笑』
「…どいてほしいん?」
『ずるいなぁ、一回手を離して?』
「また戻ってきてええの?」
『いいから、一回、ね?』
「…ほんなら、帰る前にもっぺんだけええよって言って?」
『帰る前にもう一回だけいいよ?』
「寝とる時でもええの?」
『…? なんのこと?』
「…ええの、もっぺんだけええんやんな?」
『う、ん? いいよ、いいからはい、一回動かせて』