第16章 釘
『…侑くん、ありがとう。 大好き。 …全部ここに、ある』
目を見て、そう伝えると、
侑くんは見たこともないくらい、優しい目をして笑った。
それからぎゅってもう一度抱きしめて、
「…飲み終えたら、海行くで。 波が、俺らを待っとる」
切り替えよ、っていうみたいな、
でもそれでいて極自然な感じで、話題を変える。
今までの余韻を引っ張らないような、感じを、自然に。
『…ふ …そうだね、なんて言って入るのがいいかな』
「んなもん、待たせたな!やろ」
『…笑 ほんとに?』
「…いや、ちゃう。 いつもありがとうございます。今日もよろしくお願いします。 や」
『…ふはっ』
いきなりほんとのやつ言うから笑っちゃった。
別に待たせたな!って本当に思ってるわけでも言うわけでもないから
全然その調子の流れでよかったんだけど。
「でもそうやん、ほんまここでそれ思うようになったわ」
『ん、』
「自然相手にして、地球相手にしてするもんってすごいわ、謙虚になる」
『ん、』
「なんそれ」
『いいの、侑くんを精一杯吸収してるの今』
「いや余計なんそれ」
『ふふっ …じゃあ、行こっか♡』
グラスをカウンターに返して、
お店の外に出るとすっと侑くんの手がわたしの手に触れる。
そのまま自然に繋がれて。
とりあえず車まで、真っ直ぐに、でもゆらゆらと歩き出す。
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「や、だからあかんって、いくら水着下に着とるからってそんなんしたら」
『…笑 それ何回目』
「だって何回でも思うんやもん!」
『そっか、じゃあ何回でも思って、何回でもドキドキしてて?』
「だっ なんやねんそれ!そんな言ったらまたくるで俺!」
『んふふ、待ってるね♡』
そんな軽口をを叩けるこの時間すら、眩しい。
いつも通りのようでいていつも通りじゃない、
刹那を感じながらも同時に永遠の中にいるみたいな…