第16章 釘
しばらくの間、そのまま抱きしめとった。
穂波ちゃんはあれ以上泣くってことはなかったけど、
落ち着いてくることもなかった。
静かにすんすんって泣き続けた。
俺に甘えるみたいに、
俺との時間を終わらせたくないって言っとるみたいに。
それでもう、我慢とか、なんやろ…
自分で自分にしたはずの約束みたいなもん、吹っ飛んだ。
穂波ちゃんの肩に手を添えてそっと身体を離す。
それから身体をかがめ、穂波ちゃんに口付けた。
変な言い方やし、考えれば考えるほどわけがわからんけど、
ただ、ただ、安心させたかった。
けど同時に確信もあった。
俺がキスすることで、安心させられる。
今の穂波ちゃんを安心させられるのは俺しかおらん。
未来にずっと一緒におれる日はこんかもしれん…いやこんのやろと思う、
でもこの1週間は嘘やない、消えてなくなったりもせん、
ずっと俺らは続いてくで、俺らなりに続いてく。
やからもう、泣かんでもええよって、したかった。
息が続くかぎり、長く優しくキスをした。
そっと、唇を離すと、ゆっくりと瞼を開いた穂波ちゃんと目が合った。
お互いにふっと目をすぼめて、こつんっとおでこを合わせ合う。
おでこ合わせたまま、また目を閉じて。
ちょっと左右に顔を揺らしたりもして。
それからもっぺん、次は俺からやなくて、
お互いに確かめ合うみたいにゆっくり近づいてって、唇を重ねた。
熱を帯びることはなくって
ただただ、眩しくてあったかくって、優しいキスやった。
『…侑くん、ありがとう。 大好き。 …全部ここに、ある』
俺の目をじっと見つめて穂波ちゃんはそう言った。
そよ風に吹かれて揺れる花みたいに綺麗に笑って、そう言った。
一生忘れられへんやろな、思う瞬間やった。