第16章 釘
ー穂波sideー
午前中カフェでのバイトを終え、
再会した場所で、待ち合わせ。
侑くんはcreamy strawberry coconutって名前のジュースを。
わたしはベリーいっぱいのberryliciousを。
可愛い名前。
「そのワンピースほんまよぉ似合ってんな。かわええ」
『ありがとう。侑くんも今日もかっこいいね』
「やろ?」
この間もらってもらったビラボンのブラウンのハーフパンツ。
それにえんじ色のオーバーサイズの半袖Tシャツ。胸元にsupremeのロゴ。
足元はノースフェイスの黒いアウトドアサンダル。
シンプルにかっこいい。
この1週間で侑くんはすぐにはあばあばしなくなった。
今みたいに、やろ?って言う、余裕ができた。
それでも時折見せるあばあばは以前よりもっと心をくすぐる。
たかが1週間、されど1週間。
寝食を共にするということは、すごいことだな、とか。
このままジュースを手に外に出てもいいけど、
ここ1週間、家と海でたっぷり一緒の時間を過ごしてきたわたしたちにとって、
ここで座っておしゃべりしながら飲むっていうのが、なんだろう、
少し特別で、デートみたいな。うん、何だかそんな感じがあっていいかなってことに。
「今日の波、なかなかええんちゃうん?」
『うん、わたしも思った。侑くんさすが』
波をみることまで、この1週間で習得するなんて、さすがとしか言えない。
『…でもさ、侑くん』
「ぉん、なにー?」
『…そのボトム、がっつりコットンじゃない?』
「………」
『………』
「…しまった!やってもーた!」
いつも海に入る時は初日に会った時に着ていた水陸両用のパンツか、
一枚、お兄ちゃんの例の棚からもらったビラボンの水着を履いてた。
水着って言ってもぱっと見ハーフパンツみたいなやつだから、
こういうお店にももちろんこれるようなやつ。
「今日デートやって思ったら、いつもと違う服着たなって、
いつも海行っとったで、したら自ずとこのボトム履いとって… あかんやん!」
『…笑 侑くん、ほんとかわいい』
賢いようなそうでないような、
本当何度でもグッときちゃう、魅力的な人。