第16章 釘
『あったかいの、飲まないかなって持ってきてみた』
穂波ちゃんは両手に持っとったお盆をローテーブルの上に置いた。
お盆の上には保温ポット。白地に赤いheliosのロゴ。
あと透明なカップの底になんか黄色っぽいもんが入っとる。
「ぉん、飲みたい。 なにー?」
『ホットレモネード、どうですか?』
「ええな、お願いします」
こぽぽぽってお湯を注いで、スプーンで混ぜて渡してくれる。
サムがすきになるんよぉわかる、ってなんか人ごとのようにそん時思った。
「…うま。温度もちょうどええし。下に入っとたんはなんなん?」
『レモンのね、シロップだよ。暑い時は炭酸で割ったりも。それはまたしようね?』
「ぉん、またしよな。 シロップは作ったん?」
『うん、漬けておくだけ。おいしさはレモン達の力です』
「ぶっ… なんそれ 笑」
『そのまんまの意味ですよ』
なんもおかしいこと言うてません、みたいな穏やかな口調。
落ち着くわ。
「なぁこのブランケット、どこのメーカーなん?」
『あ、それ良いよね、軽くて気持ちよくて。色味もすてき』
「ぉん、むっちゃええ」
『それはKLIPPANってとこのだよ。スウェーデンのメーカー』
「へぇ、日本でも買えるんかな」
『うん、買える買える。ウール素材がメインだけど、こういうコットン素材もあるみたい。
ウールのもね、すっごく良いよ。おすすめだよ』
「そうなんや、また探してみよ」
『んふふ、また探してみて♡ ってそれはわたしが買ったわけじゃないけどさ』
「お兄さん、センスええんやろな、かっこええんやろなー」
『お兄ちゃん? かっこいいよー♡』
「…なんそれ、ええなぁ、なんかええなぁ」
妹にかっこええって手放しに行ってもらえる兄貴とか、ええなぁ。
あ、そや。
やりたいこと一個浮かんだんやった。