第16章 釘
「なんでそんなこと今、聞いてくるんだろうっていうそっちが気になるかな」
『………』
「…侑くんが聞かなくていいの?って言ったとか」
『…あ、うん、そう。 …明日からも泊まったらどうかなって提案して、それで』
「…あぁ」
なんでそんなこと提案できるのって侑くんはなる。
なんでって聞く。 穂波はあばあばする。
その姿に侑くんがくすぐられる。 穂波が真っ直ぐ答える。
逆に冷静になる。
「…いいよ別に。穂波がそうしたいならすればいい」
『うん、いいの?』
「ダメって言ったら今から帰すの?」
『うん』
「ぶはっ… 侑くん不憫すぎる」
『………』
「…で、まだ話せてないことがあるんでしょ?」
そうじゃなきゃ、もっとあっけらかんとしてるはずで。
『…ん』
「…おれに言わせるの?」
『………』
「だいたい想像はつくけど」
『…電話でこんなこと言われたら、どんな気持ちだろうって今になって』
「…でも遅かれ早かれ電話で話すつもりだったんでしょ」
『………』
「その間、なに?」
絶対ないってわかってても、急に不安になる。
もしかしておれが思ってた展開じゃないんじゃないかって。
『…研磨くん、ごめんね』
「………」
いやだな、こういう時のごめんって、いやだ。
『おかしいことは分かってる、分かってるんだけどね…』
「………」
『この期に及んでも、研磨くんがすきって気持ちでいっぱいになっちゃうの。
電話してるだけで… そんな内容じゃないし今わたしが求められてることってそんなことじゃないのに』
「………」
『すきすき…奇跡みたいって思ってた。 そんな間です。 …ごめんなさい』
…はぁ、ほんと、なんでそうなるの。
…けどよかった。
極たまに揺らぐことある、こういう時。
おれの気持ちが、じゃなくて、穂波の気持ちがって考えた時。
…あー、よかった。