第16章 釘
ー穂波sideー
抵抗できない、と思った。
腰に力が入らないからじゃない、
ただ単純に、侑くんから自分が逃げる気がないことを悟った。
言い訳をしていいのなら、
わたしはきっと今ハイの状態で。
満たされてると同時に、決定的な欲求不満も蓄積されてた。
あれもこれもやって、気持ちいいことも最大限味わいたいっていうハイな状態のわたしにとって、
そばに研磨くんがいないことが、そういう形で作用したというか。
研磨くんに求めて満たされば他は何もいらないそれが、今はなかった。
その状態で侑くんにまさかの再会をして、海にも行って。
そして求められて、身体は疼いた。矢印は一つしかないようだった。
…浮気なのか。 本気なのか。
それすらもわからない、波に飲まれて流されて、どこまでも行ってしまう予感がした。
この、意地悪を言ってもすごんでも、
どこまでも丁寧で献身的な、侑くんに全てを委ねて。
ベッドの上、覆いかぶさられるっていうもう、決定的な状況で。
考えなきゃいけないのに何も考えれないっていう状況で。
侑くんは、多分、今エッチはしない という趣旨のことを呟くように話した。
我慢するって。
そしてその後に
「でもな、」
と続いてそして、無言になる。
廊下の光がドアの空いてる隙間からほんのりと入るその程度の明るさの部屋では
言葉や息遣いだとかそういう音と、相手の動く気配に一層敏感になる。
『…ぁっ』
侑くんの指が、脚に触れる。
そして侑くんの頭が降下していく。
見えなくなったと思ったら足首に、舌が触れた。
ペロッと、程よい硬さで。
そして脚のそこここに、キスが落とされて行く。
優しく優しく、丁寧に、そしていやらしく。
そして気づけば、少しずつ、腰に力が入るようになってる。
侑くんに触れられることで、揺れたり浮かせたり、少しずつ戻っていってる。
何これ変なの、侑くんのキスで腰抜けて。
侑くんのキスで治っていってる。
たまたまタイミングが重なっただけかもしれないけれど。