第13章 新たな風
「ん?」
「だってトールは世界一のセッターだから、トールが相手じゃ勝ち目ないし…」
彼は独り言のようにボソボソ呟く
「歩、俺早く大人になるから待ってて」
「どーゆーこと?」
「俺が大人になったら、彼女になってよ」
?…一瞬意図がわからず困惑したけれど、可愛い子供の戯言だと思って
「ありがと、良い男になるの待ってるわ」
と言ってカイ君の頭を再び、タオルでクシャクシャと拭いた
と、そこに
「カイ〜お母さん迎えにきたよ」
と及川さんがカイ君を呼びにきた
カイ君は、何か言いたげにしていたけれど、頭を拭いていたタオルを私に押し付けて、そのまま去っていった
その後ろ姿を見ていると及川さんが
「なにその顔、カイに口説かれてたとか?」
と言ってニヤニヤする
「口説くって…そんな…まだ小学生ですよ?」
「小学生だって立派な男でしょ。俺の初恋だって小学校の担任の先生だったし、大人の女性に憧れる年頃なんだよ」
「そうなんですか?で、今その初恋の先生は?」
「さあね」
「ほら、そんなもんでしょ?でも、あの子すごいですね」
「わかる?」
「はい、正直他の子とはレベル違いますもん」
「あの子は本当はこの教室じゃない、ちゃんとしたチームに通ってるんだけどね、猛の友達でさ、俺が指導に来る日だけコッチに参加してるんだよ」
「及川さんのこと尊敬してるんですね」
「まーね、俺って天才かつイケメンだから、溢れ出るカリスマオーラが小学生にまで伝わっちゃってさ」
「はいはい」
「あー、バカにしてるだろ」
「してないですよ、あ、私保護者の方にビブス渡しに行かないと」
「ちょ、歩ちゃん、まだ話終わってな…
「カイくん、及川さんのこと世界一のセッターって言ってましたよ」
私がそう言うと、さっきまで自分で自分のことを褒め称えまくってたくせに、及川さんは急に照れたような表情をする
「じゃあ、またあとで」
私は及川さんがきた方向に歩き出した