第8章 それぞれの春高まで
ー月島side
歩の手作りケーキ
兵庫にいる時はよく作ってたって…
誰のために?
僕は食べたことのない歩の手料理
「うちら夫婦共働きやから、歩が家族全員分のお弁当作ってくれてるんよ、それだけが取り柄やわこの子は。ええお嫁さんになるで〜」
歩のお母さんが言う
「こっちの中学給食ちゃうから、私らのもいっつもお姉が作ってくれてんねんけど、オシャレやし美味しいよな」
「ほんまそれ、将来弁当屋かケーキ屋なってよ」
「そう言えば先月くらい、昼休み勉強しながら食べるからってサンドイッチとかおにぎり大量に作ってた時あったよな?
…蛍くんも食べた?」
妹たちが皿を空にしながら話している
「いや…僕は…」
昼休み勉強しながら…
それって影山と期末テストの勉強してた時?
あの時歩は影山に勉強教えるのみならず、手作り弁当まで振る舞ってたってワケ?
「僕にも今度作ってよ、お弁当」
平静を装ってそう言うのが精一杯だった
「そうしたらいいわ、5個作んのも6個作んのも変わらんやろ?」
歩のお母さんが名案を思いついたように言う
「いや、それ作ってもらってる立場の人間が言うやつちゃうから
でも…ツッキーがいいなら作るで」
そう言って歩が僕に笑いかける
いいに決まってる
醜い嫉妬心で埋め尽くされそうになった心を、満たしてくれるのもまた君だから厄介だよホント
「さぁ、そろそろ送っていかないと明日も部活やもんね」
歩のお母さんがそう言ってエプロンを外す
「うちらも蛍くん送っていきたい!」
「何でやねん、座席のフォーメーションがおかしいやろ」
妹にツッこむ歩
「あんたら三姉妹が後ろで、蛍くん助手席やな」
さも当然のようにお母さんが言い放つ
「いや、母ちゃんおかしいやろ!お姉が助手席で、蛍くんうちらの真ん中やんな」
下の妹に笑いかけられる
どっちかというと下の妹の方が歩に似た顔立ちで、幼くした歩みたいで可愛い
だからなんていうか…懐かれるのは悪い気がしない
苦笑いしてると
「もうっ、明日も早いしツッキーんちなんか車やったらすぐそこやろ?あんたらは待っといて、いこ!ツッキー」