第8章 それぞれの春高まで
「ちょ、これは蛍くんのっ!はいどうぞ」
次女が三女から皿を奪い取ってツッキーの前に差し出す
大きめにカットされたデコレーションケーキにメリークリスマスのプレートまで乗せられている
「ありがとう」
「で、今までどこ行ってたん?」
ニヤニヤした妹たちが訊いてくる
「…プラネタリウム」
とツッキーが答えると、2人はロマンチックだのなんだのって盛り上がってる
「歩は、蛍くんとお付き合いしてんの?」
お茶を出しながら母ちゃんが豪速球でデッドボールを当ててくる
「え…いや…その…」
この微妙な関係を言語化出来ずに口籠ってると
「年が明けたら全国大会があります、浮ついた気持ちでチームに迷惑かけたくないので、それが終わったら歩さんに正式に告白しようと思ってます」
顔色ひとつ変えずにツッキーが言う
「あらまぁ…若いのにしっかりとして…」
母ちゃんは感心してる
「順序はきちんと守りたいので」
とツッキーが言い放った
いやいや、待って待って
順序ってなに?初っ端キスしたやんな?
涼しい顔して、よくそんなこと言うわ
チラッとツッキーを横目で見るとニヤニヤしながらこっちを見てる
「蛍くん、これからも歩のこと、よろしくね」
「ほんまお姉にはもったいないわ」
いやいや
みんな騙されてる!!
そやったそやった
最近やたらキラキラしてて忘れかけてたけど、ツッキーは腹黒意地悪眼鏡やった
私の冷ややかな視線をものともせず、ケーキを口に運ぶツッキー
「美味しいです」
「最近駅前に出来た、なんか横文字の難しい店のやつ!気に入ってもらえてよかったわ」
母ちゃんが手を叩いて喜ぶ
「えー、でもこれやったらお姉のケーキのが美味しいよな?年頃の女子にはちょっと甘すぎるわ」
「確かに!蛍くん、お姉の作ったケーキ食べたことある?」
妹たちが口々に言う
「ないね」
ツッキーがチラッと私の方を見る
「…なによ?だってそんな機会なかったやん」
「今日作ってくれたら良かったのに」
「ほんまや!ごめんな〜この子、女子力低くて」
母ちゃんが謝る
「兵庫おる時は、よう作ってたよな!クリスマスとかバレンタインとか」
下の妹がケーキを頬張りながら言う