第8章 それぞれの春高まで
ー歩side
「さ、そろそろ送ってく」
ツッキーが立ち上がって、私に手を差し伸べる
私はその手を掴んでベンチから立ち上がる
家に着くとツッキーが
「遅くしたから、お母さんに挨拶する」
って言うので、一緒に玄関に入る
「ただいまー」
私の声を聞いた母ちゃんと妹たちが部屋から飛び出てくる
「歩、さすがに遅…あら、蛍くん」
いつの間にオカンまで下の名前で呼んでるん
「お邪魔してます、遅い時間まで娘さん連れて歩いてごめんなさい」
「いや…ええんよ、出掛けるとしか言うてへんたから…あんた、蛍くんと一緒なんやったらそう言うたらいいのに!」
「じゃあ僕はここで…」
「えー、蛍くん帰るん?ケーキ食べて帰りーや」
上の妹が言う
まじで馴れ馴れしい
10年前から知り合いか
「それがいいわ、みんなでケーキ食べよ。歩が帰ってくんの待ってたから。蛍くん、親御さんに連絡して!あとで車で送ってあげるから」
「いや…そんなご迷惑なんで」
「ご迷惑なことないよ、さぁさぁ上がって!」
「蛍くん、スリッパどうぞ」
下の妹がすかさずスリッパを差し出す
橘家の圧に負けて、ツッキー渋々靴を脱いで家に上がる
リビングに入ると母ちゃんはツッキーをダイニングに座らせて、ホールのケーキを運んでくる
「メリークリスマース!!」
妹たちがクラッカーを鳴らす
「蛍くんはコーヒー飲める?遅い時間やからお茶にしよか?」
母ちゃんが張り切ってる
「あ…じゃあお茶で」
「了解、待ってな!こないだパパが出張先で貰ってきた、ええお茶があるんよ!金粉入ったやつ」
「ちょっともう、わざわざええお茶とかそんなん言わんでいいから」
「てか、蛍くんケーキとか食べるん?甘いの大丈夫なん?」
上の妹がナイフでケーキを切り分けながら訊く
「大丈夫もなにもツッキーめっちゃ甘党やから」
代わりに答えると
「そーなん?!可愛い〜ギャップ萌え〜!」
とか言って盛り上がってる
横目でチラッとツッキーを見ると、明らかに我が家の圧に、おされてる
いつも飄々としてるから、新鮮でおもしろい
「で、今までどこいってたん?」
下の妹が1番大きなケーキが乗ったお皿を取りながら言う