第8章 それぞれの春高まで
店から出ると辺りはすっかり暗くなっていた
「そんな遅い時間でもないのに、外真っ暗ですね」
「最近本当、日が短いな…送ってくよ」
そう言って2人で並んで歩き出す
12月中旬
正月が来たらすぐに春高
それが終われば俺らは引退
こうして2人で並んで歩くのは今日が最後かもしれない
今という時間が零れ落ちないようにと願いながら…
まだ着かないでと祈りながら…
一歩一歩大事に踏みしめる
「じゃあ、この辺で…今日はありがとうございました」
彼女が立ち止まって、ペコッとお辞儀をする
「ああ、うん…そうだ、これ」
俺はポケットから小さな包みを取り出した
「これ、なんですか?」
「クリスマスプレゼント…これなら受け取ってくれる?」
「いつの間にそんな…ありがとうございます、実は私も」
そう言って彼女はカバンの中をごそごそとして、ラッピングされた袋を取り出す
俺たちはお互いのプレゼントを受け取る
彼女に渡された袋は、さっき2人で部のプレゼント交換のために立ち寄った店のものだった
「これ、さっきの店の?」
「あ、はい…スガさん、俺が欲しいわって言ってたから」
「嬉しい、ありがとう!でもプレゼント交換で俺に当たったら2個になるじゃん」
「と思って、違う色にしました」
包みを開けると確かにさっき見たのと少しデザインが違う
黒を基調に人差し指の部分だけがオレンジになっている手袋だった
「烏野カラーです」
「嬉しい!まじで大事にする!一生はめるわ」
「アハハ、一生は耐久せーへんでしょ!てか一生はめるなら、2個になっても問題ないですよね」
「確かに」
「スガさんのも…開けていいですか?」
「うん、大したモノじゃないけど」
彼女が包みを開ける
「これ…ハンドクリームですか?」
「うん、結構手荒れてたから」
「うわ、恥ずかしい」
「何か口に入れても無害な成分で出来てるらしいよ」
「スガさんめっちゃ女子力高い!嬉しい〜毎朝お弁当作るから、これなら塗ってても食べ物触って大丈夫ですもんね!」
「喜んでもらえてよかった」
「早速今晩から使いますね!」
「うん、じゃあおやすみ…」
予期せず彼女から貰ったプレゼント
俺のためにって選んでくれたと思うとマジで嬉しい
やっぱ諦めらんねぇ
せめて卒業までは夢見てたっていいよな