第6章 水族館
この後の昼食は何処にするのか、皆で話し合いながら水族館の出口へ向かう。
その間、俺は別の事を考えていた。
さっきのキーホルダー、花里は結局買わずに戻したようだが、俺に見せに来たという事は、やはり欲しかったのだろうか。
……。
俺はぴたっと立ち止まる。
それに気付いて皆はて?と振り返った。
「あれ?冨岡さん、どうしたんですか?」
「いや、その……、忘れ物をした」
「え⁈」
我ながらヘンテコな嘘をついてしまった。
一体水族館のどこに何を忘れるというのだ。
それでも花里は俺を一切疑う事なく、全力で心配してくれる。
「一緒に戻りましょうか?」
「大丈夫だ。すぐ行ってくるから先に店に向かってくれ」
「でも…、すぐなら私待ってます!」
「……」
なんと!
花里の優しさは嬉しいのだが、今発揮されてしまうと俺の計画が実行に移せなくなる。
どうする、諦めるか…
狼狽える俺を見て何か勘付いた伊黒がここで助け舟を出してくれた。
「あー…、あれだ。柚葉、先に行こう。丁度昼時だから混むかもしれない。先に店に行って席を取っておいた方が効率がいい」
「そっか、分かった。じゃあ先に行ってますね」
「あぁ、すまない」
「冨岡、早めに済ませて来い」
「恩にきる」
伊黒に感謝してから、今来た所を急いで戻る。
余計なお世話、お節介だと言われるかもしれない。
それでももし、受け取ってもらえたら嬉しい。
そんな事を思いながら、俺はさっきの土産屋へと向かった。
無事に目的の物を入手すると、今度は花里達の待つ店へと急いだ。
甘露寺がネットで調べて、「美味しそうだ!」ということでそこに決まった定食店だ。
店内へ入ると、三人の待つ席へと案内される。
「遅い。待ちくたびれたぞ」
開口一番伊黒にネチネチ言われるが、朝の駅での「遅い!」に比べてはるかに優しかったので、思わずニヤけてしまいそうだった。