第6章 水族館
「自分の分はいいのか?」
「そうですねぇ、見ていこうかな。冨岡さんは?」
「俺は…」
「あ、向こうにでっかいサメのぬいぐるみありますよ!」
「…もう家にいるでかいので充分だ」
「ふふっ、私向こう見てきますね」
そう言い残して、花里はキーホルダーや文房具等が並ぶ小物売り場へと行ってしまった。
揶揄われた感…
だが不思議なことに、ちっとも怒る気にならない。
今なら何でも許せそうだと思いながら、俺も家に一つ買っていこうかと、平台に並ぶ土産のお菓子を眺めてみる。
皆、何なら喜んでくれるだろうかと思いながら…
暫くすると、急に背中をツンツンと突かれる。
パッと振り向くと、にこにこの花里がいた。
…可愛い。
「いいものあったか?」
「はい!これ…」
手に持っていたものを掲げて見せてくれる。
淡いピンク色の綺麗な石のようなイルカに、小さな星の飾りが三つ連なっているキーホルダー。
「可愛いな」
「でしょ?青もあったんです。一緒に持ってきました」
そう言って、そちらも見せてくれた。
コバルトブルーの、こちらも良い色味だ。
「で、こっちをこうして…、こっちをこうしたら…」
ピンク色を自分のショルダーバッグへ、青色を俺のボディバッグへ付けるフリをしてみせると…
「お揃いですね。……なんちゃって」
頬をほんのり染めて、少し恥ずかしそうに笑う花里。
……なんと。
それは、今の俺にとってもの凄く…
「あ、えーと……、やっぱりお母さんのだけ買ってきます!」
「いや、花里…」
照れ隠しだったのだろうか。
捲し立てる様に早口で言い終えると、俺が引き留めるよりも早くレジまで走って行ってしまった。
驚いて何も言えなかったが、嫌とかでは全くなく。
寧ろ、嬉し過ぎて言葉が出なかった。
さっき、俺がちゃんと反応出来ていれば、あのキーホルダーは今頃…。
勿体無いことをしたと思いながら、会計を済ませた花里と一緒に、土産屋の出入り口で俺達を呼ぶ伊黒達と合流した。