第3章 瀞霊廷での居場所
「朽木家の敷地にある泉から現れた女子というのは、お主か」
「―…藍野美穂子と言います」
見事なひげを蓄えた老人からは―…なにやら凄まじい威圧感を感じた。
美穂子はドキドキする心を出来るだけ抑え込んで、ゆっくりと静かに名乗って頭を下げる。
ちらりと横目で見れば、周りには白哉以外にもたくさんの人がいた。
中には中学生くらいかって思うほどの小柄な男の子もいたけど、彼を含む全員から不信感をヒシヒシと感じた。
それもそうか、と思う。
突然、泉から現れた女とか―…怪しすぎる。
自分がもし逆の立場でも、疑ってかかると思う。
「旅禍か?」
「―…あの。朽木さんにも聞かれましたが、“りょか”とは、なんでしょうか?」
「…ふむ。朽木隊長」
美穂子の言葉に眉をぴくりと動かした老人は、白哉を呼んだ。
すると、美穂子は一歩前に出て、こちらに視線を向けた。
「どう思う」
「―…はっきり申し上げれば、わからないとしか答えようがない。我が家の所有する泉から確かに現れたが、あそこは底まで1mもない。彼女があそこに隠れるにしても―…無理がある」
「ふむ。確か、伝説の泉というやつじゃったかな」
「伝説?」
なんだそれ、と首を傾げたのは先ほどの男の子。
銀色の髪がふわふわと揺れた。
「―…我が家の所有する林の奥に、伝説を持つ泉がある。月夜に女神が現れるという、よくある言い伝えだ」
「十二番隊で調べたところ、あの泉はただの湧水だったはずダヨ」
ため息交じりでつまらないと言わんばかりのマユリを無視して白哉の視線は総隊長へと向く。
「ふーん、女神…ね」
ちらりと男の子が美穂子を見て、視線を総隊長へと向ける。
美穂子はちょっとムッとした。