第15章 蓮華
その足に巻き付けている紙の端に蓮の刻印が刻まれていることに気づいた。
明らかにそれは狛治が鬼だったころに見たことがある血鬼術の技に出現する蓮の花をかたどっている。
「やはり…童磨…」
思い出しただけでも眉間にしわが寄る。鬼だった頃よりはるかに強い嫌悪と憎悪が、集まってきた一同に伝わるほどだった。
「中身を見るときは落ち着けよ。焦っていいことはない」
天元の忠告に、狛治は深呼吸をして、紙に手をかけた。スルスルと外れたそれは、丁寧に二重に巻かれていた。こちらの焦燥を嘲笑うかのようなその構造に、嫌な予感が背筋を這う。
中から絵が一枚と、文字が書かれた紙がはらりと床に落ちた。
それを見た一同が愕然とした。
「これは…」
絵は、よく見れば華美な浴衣を纏い、まるで神聖な仏像のように、安らかに微笑んでいる桜華の姿だ。
だが、手首と足首には、飾りを纏わせるように縄が描かれており。その横で童磨が優しく寄り添う姿が、恍惚とした表情で描かれている。
皆が絵に気を取られている中、あと一枚の手紙のようなものを拾う。
天元の「落ち着け」という言葉が耳の奥で響く。狛治は深呼吸をし、震える手で紙を開いた。
そこに書かれていたのは、童磨の筆跡による、甘く、しかし底冷えするような言葉だった。
『猗窩座殿の妻はご傷心だったようだね。俺がこの娘の穢れも綺麗に綺麗に俺の手で洗い清めてあげているよ。
取り返したかったら、俺のところへおいで。一緒に無惨様のところへ行こうじゃないか』
童磨への怒りと憎悪、桜華への一人で行かせたことの後悔と謝罪の念、また守れていないという事実が鋭利な刃物となって心臓に突き刺さる。
持っていた紙はぐしゃりと握りつぶし、感情の爆発で全身がわなわなと震えた。
「俺は…ぁぁぁぁっ!俺はぁぁぁ!!!!」
そう呟きながら、彼は両手で自分の頭を強くひっかくように掴んだ。
脳裏に焼き付いた桜華が過去を告白してくれた時の苦しい表情と、出会った頃の空っぽな桜華の姿がよぎる。
苛立ちと焦りで、自分の呼吸すらままならない。
「おい、正気になれ!!派手にみっともねぇぞ、狛治!」
宇髄天元の声が、雷鳴のように響く。天元は、狛治の前に立ち、その肩を強く掴んだ。