第15章 蓮華
その頃、狛治が桜華を追わせていた暁がなかなか帰ってこないことに焦りを感じていた。
童磨は自分も誘い込む予定でいるのは明白だったので何か企んでいるのは明白で、その推測をしてからは嫌な予感が日増しに強くなっていた。
「くそ…。暁はどうした。アイツに捕まったのか?」
狛治は、静かに拳を握りしめた。脳裏に、あの男の、底の見えない笑みが浮かび上がる。童磨は、人を弄ぶことを何よりも楽しむ。彼が何かを企んでいるのは火を見るより明らかだった。
桜華は、あの男の元へ行った。産後のボロボロの体で、たった一人で。
そして、この数日、彼女やカナエからの連絡は途絶えたままだ。
狛治は、自身の無力さに、深い怒りを感じていた。守ると誓った。二度と大切な者を失わないと心に決めたはずなのに、またしても、何もできないまま、大切な者を危険な目に晒している。
「…もし、あの男が…桜華に何かをしたら…」
その考えが、狛治の心を氷のように冷たくした。
かつての記憶が蘇る。
父を、そして狛治を助け、更生させた慶三と恋雪を祝言前にを失った。
あの日の感情や痛み、触れた感覚までもが再び焼けるように精神を蝕んでいく。
「俺は…また、何もできないのか…?」
あの鬼は俺を煽るためなら何でもするだろう。
非道かどうかは感覚が麻痺しているというかもともとないのがあの鬼の特徴だ。
何を彼女にしているのか、考えるだけで気が狂いそうになる。
狛治は時間が経過すればするほど絶望の淵へと突き落とされそうになっていた。