第9章 月詠の子守唄
疑問符と戸惑いと安堵のぐちゃぐちゃに混じった眼差しを向ける狛治。
彼の両手を包むように取って、笑顔で答えた。
「全て叶えましょう!一緒に!きっといい道場になります!」
安堵と湧き上がって止まらぬ喜びで、狛治はがばりと桜華を抱きしめた。
「有難う....有難う...!こんな形で夢が叶うとは思わなかったんだ.....」
「まだまだこれからですよ?」
あの日の夢を見て、鬼として生きた時に膨れ上がった罪に苦しんだ日を思うとこんなにも喜んでいる狛治の気持ちが痛いほどわかるから、
上辺では落ち着くように窘めるも、自分も嬉しいのがバレてしまうほどに心が暖かい。
体を一度離して、見つめてくる目は穏やかで優しい。
「あぁ。そうだな。まだ何も始まっていない。必ず成功させて、強い隊士を育てていこう!そして桜華の日神楽家の長年の夢も叶えるぞ!」
「っはい!」
もう一度強く抱きしめられた時、これから育てていく幸せを2人で甘受していくという御馳走がとても眩しく見えた。
早速仔細をまとめた概要なるものを書きに入る。
机に向かい筆を取る桜華を後ろから抱きしめて覗き込むその眼差しは、まるで童心に返った少年のようで可愛くも愛おしく思えた。
時折、弾んだ声で問いかけたり提案してくる様子はかつて、自分が父や兄に甘えて縋っていた姿と重なる。
「桜華は暖かいな....。俺は一番にここが好きだ....。」
不意に紡がれた言葉は甘く低い声で胸の奥から温めてくれるかのよう。
腹に回された腕がきゅうと締められて肩口を猫みたいに頬ずりされた温度に狛治の愛の深さを知った気がした。
「わたしだって、狛治の腕の中が一番好きで、掛け替えのない時間です。」
「言ったな?」
「はい、言いましたよ。」
ニヤリと笑う狛治におどけてそう答えると手が重なり筆を置かされた。
「ぇ....ん!ぅ.....」
とっさに振り向いて口づけられた温度は身を溶かしてしまうほどに、甘くて優しい笑みに胸が締め付けられていく。
甘ったるい夜は、大人の殻を被った子供が戯れるような無邪気な睦みに身を任せて、互いに愛の深さに酔いしれたらいい。