第9章 月詠の子守唄
鬼殺隊である二人は時間を惜しむように、いろんな事を珠世に尋ねた。
人の血肉を喰らわずにどうやって生き長らえているのか
血鬼術や戦闘力の事
鬼や、鬼舞辻についての情報
桜華の血の力の事
狛治が人間になったことへの見解など。
全てを聞き終えたのは日付が変わる頃。各々が明子と悟が用意した食事をとったり、入浴を済ませた。
他の者たちが寝静まり、珠世と愈史郎が夜間医療が必要な裕福な家庭へと訪問医療に出かけた頃、狛治と桜華は自分たちにあてられた寝室で、皆の前で言った"隊士を育てる"という話を進めていた。
それをある程度案を出して宇髄に手紙を託したいという一心で。
道場、修練所として自分たちが師となり鍛えていくことを一番に目を輝かせていたのは狛治だ。
その心は、鬼の間忘れていた道場主になるという慶三との約束が数百年の時を経てようやく果たされるという喜びと、
長きにわたり苦しめてきた人間たちの役に立てる初めての道筋を自ら立てているという喜びで満ちていた。
「道場は雨の日に基礎鍛錬を積むために使おう!」
「皆も疲れ果てた時には休めたり、湯浴みができる宿泊所のような設備もあればいいな!」
桜華は、心を隠さず楽しそうに話す狛治の描く未来予想図を一緒に実現していきたいと強く思った。
何より、己の願望だけではなく、鍛錬に来る隊士たちのことも考えることも同じように言う目の前の男の心が凄く嬉しいと思った。
もう、そこには出会った頃の矛盾だらけの修羅の鱗片も感じず、心の奥底に隠れていたものが何の障害もなく花開いているようにすら思えた。
思わず涙腺に込み上げてくるものを抑えようと唇を歪めて縛ると、狛治はそれに気づいて慌てて桜華の両肩を掴んだ。
「すまない...!俺ばかり話してしまったな。どうした?」
心配して覗き込む優しい男に桜華は寝着の袖で涙を拭いながら笑顔で首を振った。
「いいえ、ごめんなさい。嬉しくて....。」