第9章 月詠の子守唄
「桜華.....って事は....。」
宇髄のつぶやきに桜華は深く頷く。
「はい。前世のわたしの名です。つまりは、前世のわたしは、黒死牟となった元鬼狩りの娘。
日神楽家は、鬼となった父を罪の連鎖から解放するため、継国縁壱の剣技、呼吸術を鬼狩りが必要でなくなるその日まで継承し、産屋敷家鬼殺隊が滅亡の危機の時に育手となれるよう鬼殺隊としては影を潜めておりました。」
「日神楽家は叔父と継国家の生き残りを鬼から隠すために、わたしが、当時叔父だった父に協力していただいて設立した家。
戦国混乱期で飢饉も絶えない時代でしたが、表向きは商人として生計を立て、父の日の呼吸、巌勝の月の呼吸を学び、そこから結の呼吸を派生させるのに成功させました。
それらを得意の舞に組ませたのが日神楽家に伝わる日神楽舞踊。
わたしは当時月の呼吸も日の呼吸も完璧に舞えても、威力は二人に到底及ばないものでした。」
流暢に話すそれは、まるで自分が話しているような感覚ではない。
前世の魂が自分の内側から話しているようで背筋がゾワッと冷える気がした。
でも、不思議と声に出る度に散らばった本が整頓されていく感覚とともに記憶が鮮やかになっていく。
「桜華...。」
狛治も、話している桜華が、別の人間が話しているように思えてならなかった。
不可思議なことが起きる度に彼女の体調や心が心配で気が気ではない。
気にかける夫の心配するような眼差しに静かに笑みを浮かべる。
大丈夫だと言わんばかりに。
「産屋敷家と身分差があっても呼吸術が絶えればまたそれを教えたりして呼吸術を継承したり、資金、資源を手配する契約を結び、代々陰で鬼狩りが途絶えぬよう支える家として生まれ変わったわたしの代まで続いてきたのです。」
「父の前世、継国縁壱は始まりの呼吸である日の呼吸を生まれながらにして習得して鬼狩りの呼吸術として広げ、唯一一人で鬼舞辻無惨を死に追い込んだ鬼狩りでもあります。
ですので、継国家が発端である日の呼吸、月の呼吸、結の呼吸は我々が継承していく義務がありました。
いつか無惨を倒せるその日まで......。」