第9章 月詠の子守唄
「はい。仰る通りです。
黒死牟が鬼となり、鬼舞辻の血が順応し目覚めてすぐ、黒死牟は.....、」
珠世はそっと心配するような視線を桜華に向けた。
それに静かに深く頷くと、珠世は再び皆の方を見て話す。
「当時の産屋敷家当主の頸を持ち帰りました。」
衝撃の事実を聞かされてか、場の空気が重くなり、予想していた狛治もあまりに重い事実に息をのんだ。
いたたまれなさに思わず横にいる桜華の手を強く握りしめ、桜華は静かに目を伏せ俯いた。
宇髄もカナエも言葉には出さないが青ざめて、息のしかたも忘れるほどだった。
「わたしが鬼狩り様に助けられたのはその日の晩の事。
どういう因果か、その鬼狩り様は黒死牟になる前の継国巌勝と瓜二つで名を継国縁壱。彼は巌勝の双子の弟であり、同じく痣者でしたが、他の痣者などと比較するにも及ばぬほどの圧倒的な強い鬼狩り様。たった一人でわたしの前で鬼舞辻をあと一歩のところに追い込みました。」
「痣者なんて聞いたこともねぇのに、それでも及ばないくらい強いだと?
どうやって無惨はそいつから助かったんだ?」
「破裂するように細々に分裂して逃げました。
それでも縁壱様は最後まで刀を振り続け、それでも僅かな取りこぼしを遠くに飛ばし逃げたのです。
しかし、その時わたしは、彼の精神支配下から解放されました。
わたしはあまりもの衝撃とあと一歩だったのにという思いでその場で泣き崩れた。そこで話を聞いてくださったのです。
わたしは縁壱様に鬼舞辻の全て、鬼の全てを話しました。
そして彼からお願いされ、約束したのです。
鬼舞辻を必ず倒すと.....。
その時、彼のお兄さんが鬼になったこと、とても言えず、鬼狩り様がくるからと逃がされました。」
「そして、彼に次に会ったのはそれから10数年後。
その時はお兄様が鬼となりわたしを逃がしたことで鬼狩りを追放されていましたが
縁壱さんは会わせたい人がいると、心の晴れた様子で翌々日会う予定を取り付けてその日は別れました。
そして、翌々日、彼が連れてこられたお嬢様と商家をたちあげると仰せになり、その方を姪だと紹介していただきました。
つまりは黒死牟となる前、更には鬼狩りになる前の継国巌勝が、継国家においてきたという家族で子どもの一人。
継国桜華さんでした。」