第9章 月詠の子守唄
「私が、鬼になったのはもうどれほど前の話か...。私は鬼舞辻に病が治ると唆され鬼となり最初に”病で亡くなり残していきたくなかった家族”を喰らいました。それからは、狛治さんもご経験の通り、己の意志以外は認めぬ鬼舞辻の元で100年以上も苦痛と鬼舞辻への憎悪、死ねぬ苦しみなど沢山の想いを抱えながら生きていました。」
珠世が語りだしたその様子は憎き鬼の始祖の顔を思い出すように、またはその頃に抱えていた憎しみや苦しみを全て思い出すように胸の着物の合わせを掴んで話し始めた。
「時は400年前の戦国の世。鬼狩りが全盛期を迎えた頃、鬼舞辻が鬼狩りの脅威を眼前に、”強い鬼が欲しい”と言い出すようになり、目を付けたのが鬼狩りの”痣者”。
呼吸術が生まれ、その呼吸術を極限に極めた一部の剣士の中でも特に実力が高い剣士の体や顔に生まれる”痣”を持った者に声をかけました。
その中でも特に強く鬼舞辻の眼と心をひいたのが、月の呼吸の剣士”継国巌勝”。
彼は剣技を鍛えたいが、痣者となった者に課せられた25歳という寿命が目前に迫り、それを酷く憂いているようでした。
鬼舞辻はそこを上手く唆し、鬼へと誘った。
彼はそれに応え鬼となり名を”黒死牟”に改め、桜華さんから頂いた最近の手紙から、今までずっと上弦の壱として君臨し続けているのが確認できました。」
「つまり400年上弦の壱は変わらないと?」
宇髄が珠世に聞き返したが、珠世はもう既に400年以上鬼側の新しい情報や内情を知らない。
代わりに狛治が答えた。
「珠世さんは逃れ者だ。そうなってからの情報は例え鬼でも無惨の精神支配下になければ情報は共有されない。
桜華は逃れ者ではなかった俺でもその精神支配から外せる特異体質だ。俺が人間の心を取り戻したのも桜華の隣にいる時間が長かったからこそ。
故にその期間鬼側でどんな問題が起きどんな鬼が上位に上がり誰が滅びたのか知る由もない。
だから俺が言う。黒死牟は俺が鬼になった時、既に無惨の右腕だった。それに珠世さんも既にその時は逃れ者だとして、見つければ始末するように言われてきた。」
「じゃぁ、お前が鬼狩りに助けてもらったってんのはそのすぐ後なのか?」
宇髄は再度珠世に質問を投げかけた。