第9章 月詠の子守唄
愈史郎にも珠世自身にも信頼できるような桜華と二人しか知らない事実を並べて告げて、首筋を見せると
「ふん。解った。もういい。」
とそっぽを向いた。
「桜華さん。気を悪くさせてごめんなさい。
皆さん、道中お疲れのところ恐縮ではございますが、鬼殺隊であるお二人は任務もあるでしょう。
なるべく明日の日中にはお帰りいただけるように主要なところからお話させていただきます。」
「そうさせてもらう。俺は今まで人を喰わねぇ鬼と関わったことがない。
さっき、姫さんが言ってた前世の姫さんの父ちゃんがお前を助けたって経緯からも聞きたいところだ。」
宇髄は少し殺気立っているが無理もない。
狛治は元上弦であっても既に血肉を喰らわぬ人間であったが、珠世と由四郎は今も尚鬼である。
例え血の匂いも鬼特有の禍々した雰囲気も感じないにしろ、”人とは違う何か”と”鬼という者に対しての先入観”が体に染みついて反応させてくるのだ。
「そうですね。あなたが仰る通り、彼に助けていただいた経緯も話しておいた方が日神楽家とわたしたちの繋がりがより解っていただけるかもしれません。
今日は診察は終いにしたので、応接室にて詳しくお話したいと思います。」
珠世は愈史郎にそっと目を向けた後、明子と悟、他4人を連れて応接室へと向かった。
洋式の大きな8人掛けのテーブルにそれぞれが腰を据え、皆が見渡せる上座に珠世が、その前に日神楽家、細手塚家と向かい合わせ、鬼殺隊の二人もその横に静かに座った。
明子が買いに行っておいたのか、愈史郎が西洋の菓子と紅茶が並べられる。
「順を追ってお話をしましょう。
桜華さんが、何故前世、日神楽家を立ち上げたのか、そのキッカケになる出来事、わたしがある鬼狩り様に助けられ”逃れ者”になった経緯から、前当主 日神楽縁壱が生前わたしと桜華さんに託して逝かれたものを...。」
今から聞かされることの重要で深刻な話を待つ瞬間、緊張と静寂で、桜華の心がこれまでになく酷くざわつき始めた。