第9章 月詠の子守唄
駅に着き、宇髄の妻たちに見送られ、汽車に揺られながら4時間。
東京の郊外にて4人は教えられた駅のホームに降りた。
「あー!いたいた!桜華さーん!狛治さーん!」
久方ぶりの元気な明るい声に振り向くと、はち切れんばかりの笑顔で細手塚 明子が大きく手を振って駆け寄ってくる。
「「明子さん!」」
「お待ちしておりました!ご無事の到着、何よりです!」
2人の手を片方ずつで握りながら喜んで飛び跳ねる様子はずっと心待ちにしていてくれたのかと思うほどで、狛治と桜華はつられて頬を緩ませた。
「うわぁ!こちらが、ご報告にあったお連れの方ですね!
わたし、日神楽家使用人の細手塚 明子といいます!
本日は御足労頂き有難うございます。」
明子は2m近くある体躯の宇髄を物珍しそうに見上げて、そのあとにカナエを見た。
二人も自己紹介を済ませると
「鬼が出る刻限には痕跡が残らないように、夕暮れにならぬうちに行きましょう。」
と、ゆっくりと再会と出会いに浸ることなく駅を後にした。
明子も、鬼を狩れる身。
人気のないところでは、他4人には及ばないが、それでも常人とは明らかに異なる速さで先頭を走り抜いて珠世たちが住まう屋敷へと向かった。
しばらく走って着いたところは住宅街の少し奥地にある
周りを壁木で囲った白い洋式の大きな屋敷だった。
「日中はこうして誰でも尋ねてこれるようにしてありますが、夜には愈史郎さんの術でここが隠されます。
どうか、お二人のためにも午後5時以降の出入りはご遠慮くださいますようお願い申し上げます。」
「承知しました。」
「さぁ、兄さんがおふたりと共に中におります。
どうぞ、お上がりください。」
4人は明子に諸注意事項を告げられ、屋敷の内部に足を踏み入れた。
人とも違う気配、だが禍々しさがない不思議な雰囲気に桜華は懐かしさを感じた。