第9章 月詠の子守唄
そうか......
なんであんなに大事なことを今まで忘れてたんだろう。
あれはたしか、お父様とお兄様と3人で日神楽舞踊の稽古を受けている日。
まだ7歳だった。
「お父様、お尋ねしたい事があるのです。」
「雄一郎。言ってみなさい。」
御父様はその顔にいつもと変わらぬ穏やかな表情を浮かべて兄を見ていた。
「お父様は、今いる鬼殺隊よりも遥かにお強いとの噂が立っておられるのに、なぜ鬼狩りをしないのでしょうか。」
このころは、やっと周りの大人たちが父をどのように見ているのか、なぜそのように見られるのかが解ってきたころだった。
「そうか.....。君たちに肩身の狭い思いをさせてしまって申し訳ないとおもっているよ。
どうやら、少し話してもいい時期が来たようだ。」
お父様は、何かを決心したように一つ息を吐いた。
「雄一郎、桜華、君たちは、生まれ変わりということがあると信じるかな?」
父は少し悲しそうな顔をして尋ねた。
それがあまりにも心を締め付けるように思えて、わたしたち兄妹は互いを見やった。
そして、御父様があると仰るのなら信じますと答えた。
あの時も生まれ変わりなんて非科学的な事なんて起きやしないと思っていたけど、
あまりにも心の痛みがひしひしと感じられたから、それを否定することが出来なかった。
御父様はありがとうとわたしたちを見つめると話し始める。
「私は、日神楽舞踊を初めてあの場所で舞う数日前、私がずっと昔生きていたころの記憶が蘇ってきたんだ。凄く鮮明にね。
前世も私は、その世の中で一番に強い力を持ち、鬼狩りをしていた。
その時1つの大きな後悔と1つの大きな過ちをして、鬼を亡ぼせず、自分の兄も鬼にしてしまったんだ。
そして、その鬼になった私の兄は、まだ鬼として生きている。」
昼過ぎの青空に白く佇む月を見上げては、御父様はその人を思い浮かべるように見ていた。
時々月を見上げている父はいつも胸が締め付けられるような表情をしていたし、わたしも、兄もそれに気づいていた。