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鬼ヲ脱グ【鬼滅の刃/猗窩座・狛治】

第9章 月詠の子守唄




「俺たちが生まれてきた日のこと、母様が話してくだされただろう?

俺たちは手のひらに勾玉の模様がそれぞれ着いていたと。

母様はよく、"ずっと昔から仲が良かった"と言っていたが、俺たちはそんなことは無いとよく返していた。」



思い返せばそんな時もあったかな?

御母様の話をちゃんと聞いてあげれば良かった。

母はそういう見えない世界を信じて何でも有り難がり大事にするような純粋で優しい人だった。



「俺たちのことは、何があってもお前が思い悩む必要は無い。

みんな桜華が大好きで、今、お前の隣にいる奴に負けないくらいお前のことが大好きだ。」



涙声になっていく御兄様は、震える手でわたしの髪を撫でた。


額に水滴が落ちて、優しい兄の面影が記憶から蘇る。


ごめんなさい。


ありがとう。


色んな思いが込み上げては兄と違う水滴が頬から耳に流れて心が痛い。


指で拭ってくれる温度と感触は、一緒に御父様から日神楽舞踊を習っていたことを思い出させてくる。


嗚咽を漏らすこと、涙を流すことは許されても、目を開けることも話すことは許されない。


大好きだった家族。


本当は起き上がって抱きしめて、抱きしめられて


色んな感情が混ざった溢れんばかりの思いをぶつけるように泣き叫びたい。


でも、もう死んでしまった


失ってしまった


動かないこの体、言葉を紡げない口、塞がれたままの瞼がそれを思い知らせてくる。



「俺たちの家は長男は通名を当てられるから、桜華は俺や父様の本名を知らされていないだろう?

だが今は、お前ひとりが生き残り、当主としてやっていかなければならない。

当主としての権限は桜華にある。

父様はここへは来れないから、俺が引き継いでお前に俺と父様の本当の名を教えようと思う。

珠世さんから聞かされる前にな。」



何となくだけど、聞かされるのが怖い。

そして、知っている気がする

きっと、わたしはまたひとつ思い出すんだろう。

それはまだ分厚い黄泉の扉で挟んだような他人事のように。

どんなに過酷なことを知らされようともやることは決まっている。


この手で鬼の世を終わらせることだけだ。


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