第9章 月詠の子守唄
夢の中
現代ではない空間
わたしはきっと昨日見た夢の中にいるのだろう。
優しい男の人の声で
切ない歌が聞こえる。
「___________は
____________________
凧揚げ、双六_____
隠れて遊びしあの頃を
__________思い出す……」
懐かしくて暖かいのに
切なくて苦しそうな声
「_________よ
どうか遠くで、このままで
君を________________
憤りも忘れて凪る_______
____________思い出す…」
わたしの目線は彼に抱かれる赤子のようで
男の人の腕に抱かれている暖かさを感じる
男の人はお父様にそっくりだけど、父が太陽の穏やかさなら
この人は月の光のような穏やかさ。
「_______………。お前は菖蒲のように凛とした穏やかな娘になるのだろうな……。」
「何故だろうな......。お前を抱いてる時だけが、私は心が楽になる。
憎き忌まわしき弟さえ、許せるのだ………。」
白い着物の上に菖蒲色の羽織、瞳は赤みがかった紫で慈愛に満ちているのに、心の奥底で常に物足りなさを感じる悲しい人………。
その頬に伸びる手はやはり赤子の手。
大きな手のひらでその手を包み、男の人は涙を滲ませた。
わたしは………
彼を知ってるようで知らない。
わたしは何を見ているの?
でもこれが
もし
魂の記憶なら
あなたは........
父があの時言っておられた兄なのですか?
ならば___________
視界は暗転し、頭には誰かの膝に寝ているような高さと温かさを感じた。
「桜華、お前を置いて逝ってしまってすまない.....。」
御兄様の声........
「御父様も、俺が生きている事を望んでた。予測していた。
なのに、一人にしてごめんな......」
目を開いて確かめたいのに、何故か瞼が縫い付けられるように開かない。
「ここに来たからか、俺にも前生きてた頃が見えるんだ。
いつも一人で戦わせてすまない........。」
前に生きていた記憶?
どうして謝るの?
聞きたくても口さえ開けない。