第9章 月詠の子守唄
男児は幼いながらも、感覚的には鬼のことを知ったようだった。
純粋無垢で青空のような綺麗な心から、その子が「じいちゃん」という者が言い伝え教えてやったのだろうと思う。
子供が純粋に言う輪廻転生というものは桜華にとって受け入れ難い事実であったのに、隙間を縫って心に暖かく収まったような感覚になった。
「素敵な話教えてくれてありがとう。あの子もきっと頑張って生まれ変わって、今度は素敵なお友達になれるでしょう。
君、お名前は?」
「しんご!!6歳だよ!!」
「そっか。しんごくん、今度は日が暮れる前におうちに帰る事、ちゃんと約束できる?ちゃんと生きて、後悔の無いように生きて、また、その男の子と会うために...。」
桜華は、目の前にいる幼子の話に少し救われた気がした。
だけど、今回は助かったが、偶然と言わざるを得ない。
だからこそ、約束として自分の命を守る事をして欲しいと思った。
「うん!わかった。お母さん泣かせちゃったもん。弟を一緒に守るって約束したんだ!!」
そう嬉しそうにいう表情に母とのわだかまりが晴れたようでひとまずは大丈夫だと安心した。
「必ず、しんご君が大人になるまでに、わたしたちが夜道も歩けるようにするからね。」
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、お願いね!!ねぇねぇ、ここをいつ出るの?
僕を連れ出してくれたお姉ちゃんにもお礼が言いたいんだ。」
桜華が明日の今の刻限に出ると伝えると、わかったと言い、元気良く去っていった。
笑顔で手を振りかえす彼女を見て、心が少しは軽くなったのだと思った狛治は、
去り行く小さな背中に感謝したのだった。